動物から人にうつる未知のウイルスの出現を止められない訳
THE END OF THE WILD ANIMAL TRADE?
おまけにトラなど絶滅が危惧される動物は合法的に飼育する施設があるため、買い手は商品が合法か違法かを判断しにくい。またこうした施設は管理がずさんなため、種を超えた感染が起こりやすい。SARS禍を引き起こしたハクビシンは、野生ではなく飼育された個体だった。
近年では、テロ組織の資金源になっているとして、野生動物の違法取引を取り締まる動きもある。このアプローチは国際社会の関心を引く利点があるが、各国政府が軍隊や警察を動員して規制を行っても、違法取引の根本的な原因は取り除けない。
結局のところ買い手がいる限り、取引はなくならないのだ。「需要があれば、供給側は何とかしてそれを満たそうとする」と、ベン・エンベレクは言う。「人々の意識を変えなければ」
長期的に見れば野生動物の違法取引は下火になるかもしれない。エコヘルス・アライアンスの調査で、中国の若年層はさほど野生動物を食べたがらないことが分かっている。だが世代交代を待っている間にも野生動物は絶滅に追い込まれるし、人獣感染症が世界を脅かす状況は続く。
人類はこれまで何度もパンデミックの脅威にさらされながら、幸運にも生き延びてきた。過去にはペストのように致死率が高く、感染力も強い細菌が猛威を振るった。幸いにも今では抗生物質のおかげで細菌による感染症はさほど怖くない。
ウイルスは厄介な敵だが、これまで大規模な集団感染は中国のようなある程度の医療設備が整った国か、ギニアの農村部のように人とモノの往来が激しくなく、感染が広がりにくい場所で起きるケースがほとんどだった。
WHOが「疾病X」と呼ぶ未知の人獣感染症が世界的なパンデミックを引き起こすのは時間の問題だと、専門家は警告してきた。新型コロナウイルスはまさにその疾病Xかもしれない。そうでなくても、今の状況では第2、第3の新型ウイルスの出現は避けられないだろう。
過去にも奥地の村々で未知のウイルスが短期間暴れていたかもしれないが、それは今ほど人の往来がない時代の話だ。今や年間に約4000万便もの商用フライト(20年推計値)がウイルスを世界の隅々に運ぶ。
「人間と野生生物の関係を見直し、野生生物をそのすみかである奥地にそっと残しておくべきではないか」と、ダザックは言う。「そうすればウイルスをもらう心配もない」
<2020年3月17日号「感染症vs人類」より>
【参考記事】ダイヤモンド・プリンセス号の感染データがあぶり出す「致死率」の真実
【参考記事】新型肺炎ワクチン開発まで「あと数カ月」、イスラエルの研究機関が発表
2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。