NY株暴落、コロナショックが巻き起こす「市場パンデミック」
An Economic Pandemic
ウイルスの発生源とされる中国は最悪の時期を脱したようで、経済活動が徐々に戻ってきている。今後の心配は他の経済大国、特にアメリカで感染者が急増し、貿易や人の移動、製造業に影響が及ぶことだ。
トランプはここ何年も、製造業の中国撤退やハイテクの対中輸出制限など「脱グローバル化」を推し進めてきたが、新型コロナウイルスの影響による経済の低迷は、世界経済がいかに深く相互に依存し合っているかを改めて知らしめた。だが、ここから世界がさらなるグローバル化に進むのか、脱グローバル化に進むのかはまだわからない。
「長い目で見ると、これまで以上にポピュリズム支持が増え、これまでに築き上げたグローバルなサプライチェーンが崩壊することになる可能性もある」とボールドウィンは指摘する。だが逆に「中国がくしゃみをすればG7全体が風邪を引くのだという理解がようやく共有されて」多国間の協調が進むことになるかもしれないという。
9日の世界市場の急落は、新型コロナウイルスの経済的影響と原油市場、地政学、そして市場パニックがいかに緊密に結びついているかを思い起こさせてくれた。
サウジとロシアの思惑
新型コロナウイルスのせいで世界的な経済活動に物理的な支障が出ていることから、今年の世界の原油消費量は10年前のリーマンショック以降で初めて、減少に転じると予想されている。国際エネルギー機関(IEA)は9日、世界の原油需要が前年比で1日あたり10万バレル近く落ち込むとの見通しを発表した。
6日にはサウジアラビア率いる石油輸出国機構(OPEC)が、需要減退による原油価格の下落を限定的なものにとどめるために減産強化を提案。だが、非OPEC国のロシアに拒否され交渉は決裂した。するとサウジアラビアは突如、原油価格の大幅な「値下げ」に転じ、原油価格は一夜にして30%も下落した。これがアジア、ヨーロッパ、そして最終的にはアメリカの市場に大混乱をもたらし、投資家たちは米国債のような安全な資産に群がった。
ロシアが協調減産を拒否したのには理由がある。ロシアは経済安定のために約1500億ドルの外貨準備を蓄えており、原油価格が1バレル=42ドルを下回っても今後6年間は乗り切ることができる。それに原油価格が下落すれば、ライバルであるアメリカのシェールオイル産業に打撃を与えることができる。米シェールオイル産業は設備投資で債務が膨れ上がって生産量の伸びも鈍化しており、今年は特に原油価格下落の打撃を受けやすい状態にあるからだ。
では、原油価格を上げたがっていたサウジアラビアは、なぜ値下げを始めたのか。アメリカ産シェールオイルの台頭にはサウジアラビアもロシアと同じく苛立っている。だが、原油価格は、サウジアラビアとロシアの交渉が決裂したときからどのみち下落し始めていた。自分たちだけが原産して、もし価格は下がり続ける事態は避けたかったのだろう。