最新記事

世界経済

NY株暴落、コロナショックが巻き起こす「市場パンデミック」

An Economic Pandemic

2020年3月10日(火)17時05分
キース・ジョンソン

ウイルスの発生源とされる中国は最悪の時期を脱したようで、経済活動が徐々に戻ってきている。今後の心配は他の経済大国、特にアメリカで感染者が急増し、貿易や人の移動、製造業に影響が及ぶことだ。

トランプはここ何年も、製造業の中国撤退やハイテクの対中輸出制限など「脱グローバル化」を推し進めてきたが、新型コロナウイルスの影響による経済の低迷は、世界経済がいかに深く相互に依存し合っているかを改めて知らしめた。だが、ここから世界がさらなるグローバル化に進むのか、脱グローバル化に進むのかはまだわからない。

「長い目で見ると、これまで以上にポピュリズム支持が増え、これまでに築き上げたグローバルなサプライチェーンが崩壊することになる可能性もある」とボールドウィンは指摘する。だが逆に「中国がくしゃみをすればG7全体が風邪を引くのだという理解がようやく共有されて」多国間の協調が進むことになるかもしれないという。

9日の世界市場の急落は、新型コロナウイルスの経済的影響と原油市場、地政学、そして市場パニックがいかに緊密に結びついているかを思い起こさせてくれた。

サウジとロシアの思惑

新型コロナウイルスのせいで世界的な経済活動に物理的な支障が出ていることから、今年の世界の原油消費量は10年前のリーマンショック以降で初めて、減少に転じると予想されている。国際エネルギー機関(IEA)は9日、世界の原油需要が前年比で1日あたり10万バレル近く落ち込むとの見通しを発表した。

6日にはサウジアラビア率いる石油輸出国機構(OPEC)が、需要減退による原油価格の下落を限定的なものにとどめるために減産強化を提案。だが、非OPEC国のロシアに拒否され交渉は決裂した。するとサウジアラビアは突如、原油価格の大幅な「値下げ」に転じ、原油価格は一夜にして30%も下落した。これがアジア、ヨーロッパ、そして最終的にはアメリカの市場に大混乱をもたらし、投資家たちは米国債のような安全な資産に群がった。

ロシアが協調減産を拒否したのには理由がある。ロシアは経済安定のために約1500億ドルの外貨準備を蓄えており、原油価格が1バレル=42ドルを下回っても今後6年間は乗り切ることができる。それに原油価格が下落すれば、ライバルであるアメリカのシェールオイル産業に打撃を与えることができる。米シェールオイル産業は設備投資で債務が膨れ上がって生産量の伸びも鈍化しており、今年は特に原油価格下落の打撃を受けやすい状態にあるからだ。

では、原油価格を上げたがっていたサウジアラビアは、なぜ値下げを始めたのか。アメリカ産シェールオイルの台頭にはサウジアラビアもロシアと同じく苛立っている。だが、原油価格は、サウジアラビアとロシアの交渉が決裂したときからどのみち下落し始めていた。自分たちだけが原産して、もし価格は下がり続ける事態は避けたかったのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中