最新記事

感染症

香港、新型コロナウイルスでデモは消えたが...... 行政府や中国への感情さらに悪化

2020年3月2日(月)12時05分

香港で、行政府と中国への不満は、新型ウイルスの流行によってさらに拡大している。写真は4日、中国本土との境界封鎖を求めストに参加した医療関係者(2020年 ロイター/Tyrone Siu)

この1カ月、香港の街から民主派の抗議活動参加者の姿はほぼ完全に消え去った。住民が新型コロナウイルスを避けようとしているためだ。だが、香港行政府と中国への不満は、新型ウイルスの流行によってさらに拡大している。

一部の企業経営者や親中派の政治家までが民主派や労組有力者に加勢し、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官率いる香港行政府による一貫性のない新型ウイルス対応や、中国本土との境界封鎖の拒絶を批判している。

雑貨店チェーン阿布泰國のマイク・ラム最高経営責任者(CEO)は、「政治的な立場を問わず、香港の人々はすでに現行政府を信頼していない」と語る。

ラム氏の経営するチェーンは、新型ウイルスによりかなりの混乱を味わっており、最近では、3400箱しか在庫のない手術用マスクに対して、10万件近い購入希望があったという。

750万人の香港住民は、状況を沈静化させようという行政府の努力をほぼ無視して主食やトイレットペーパーの買いだめに走っており、マスクやハンドソープを購入できる数少ない店舗には長い行列ができている。

活動家たちは、これによって行政府への怒りが拡大しており、この夏には抗議行動が再燃するだろう、と話している。

12月31日の設立以来、320人の加入者を集めた香港製薬・医療機器産業労働者総合組合のクレメント・チュン会長は、「もう現実には政治の問題ではなく、生活そのものの問題になっている」と話す。

「新型ウイルスは、反行政府感情という点で、香港のすべての人々を結びつけた。人々は失望と怒りを抱き、何かを変えたいと考えている」と彼は言う。

「境界封鎖で香港を救え」

ラム行政長官が中国本土との境界を完全に封鎖することを拒否したのは、もっぱら中央政府に対する譲歩だと見られているが、これが多くの香港住民を刺激した。

基本的には企業寄りで、香港行政府・中国支持の姿勢をとる香港自由党の現・元党首4人は今月、新型ウイルスへの対応に関してラム長官を批判した。

4人は今月、ラム長官に送った書簡のなかで「新型ウイルスは中国本土で大混乱を引き起こしており、唯一正しい判断として、ただちに境界を封鎖すべきだった」として、長官の対応は腰が引けていて効果が薄かったと評した。

香港民意研究所が今月初めに発表した調査によれば、香港住民の4分の3は、こうした批判に同意している。

2月第1週、新たに結成された病院機関職員連合(HAEA)に所属する医師、看護師、医療従事者8000人が5日にわたるストライキに参加し、「境界封鎖で香港を救え」と声をあげた。

ストライキの開始から数時間後、ラム長官は、さらに4カ所の中国本土との検問所を閉鎖すると発表したが、全面的な封鎖には至らなかった。現在、13カ所の検問所のうち10カ所が閉鎖されている。

だが、住民のいら立ちが今年の夏に向けて広がるのを食い止めるには、これだけでは十分ではないかもしれない。

かつて民主派の政治家だった労働運動家のリー・チュクヤン氏は、「今高まりつつある怒りは、行政府に対する、また民主主義を求める今後の抗議活動に火をつけるだろう」と語る。

リー氏は、次回の抗議デモは、英国が香港の施政権を中国に返還した23回目の記念日である7月1日に始まる可能性が高いが、ウイルス禍が収まれば、もっと早く再開されるだろうと話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中