最新記事

中国

ウイグル人迫害を支えるDNAデータ収集、背後に米企業の陰

U.S. Technology Used in Uighur Surveillance

2020年2月27日(木)17時30分
ジェシカ・バッケ(チャイナファイル編集主任)、マレイク・オールベルグ(メルカトル中国研究所アナリスト)

新疆ウイグル自治区のカシュガルで行われた腕相撲大会(2019年1月) REUTERS

<反体制的なウイグル人をあぶり出す中国政府の生体認証データ収集に、米企業のDNA解析機器が使用されている可能性がある>

中国政府の調達関連文書によると、2015年に新疆生産建設兵団公安局は、住民のDNAを解析して国のデータベースに登録するために、米バイオテクノロジー企業プロメガから分析機器を購入する計画を発表した。

生産建設兵団は新疆ウイグル自治区の準軍事組織で、中央政府と自治区政府の両指揮下にある。新疆に駐屯していた中国人民解放軍部隊が起源で、270万人以上の「屯田兵」が国境付近の警備と農地開拓や資源開発に従事する。

彼らのもう1つの使命は、この地域でウイグル人などの先住民族よりも、中国で9割以上を占める漢民族の人口を増やすことだ。この兵団公安局がDNA分析機器を購入したことを、数年前から人権活動家が危惧している。ウイグル人の監視と迫害に利用される可能性が高いとみているのだ。

2017年以降、新疆ではウイグル人などのイスラム系少数民族100万人以上が「職業訓練センター」に送り込まれている。実態はイスラム教徒を再教育する強制収容所だ。

一方で中国政府当局は、自治区政府の「住民サービス管理・実名登録作業指導小組弁公室」の下、新疆の全住民からDNAなどの生体認証データを収集。人権擁護団体は、これが反体制的なウイグル人のあぶり出しに利用されるのではないかと警鐘を鳴らす。

例えば、DNAの民族的な特徴から個人の顔のイメージを予測できる。これを、中国当局が構築している大規模な監視網や顔認識システムに取り入れることもできる。

「人権保護の基準としては、当局はこのような手法の必要性や使用条件、具体的な用途を説明できなければならず、個人が事前に情報の収集や利用を拒否できなければならない」と、国際的な人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのソフィー・リチャードソン中国部長は言う。「2015年の時点で、新疆ではこれらの基準がほとんど満たされていなかった」

欧米の優生思想に類似

もっとも、中国政府が生体認証データで国民を監視しようというのは、新疆だけの話ではない。中国全土で「無料健康診断」を口実に個人のDNAを収集し、学校で子供の唾液を採取している。公安当局は年内に、1億人分のDNA情報を国のデータベースに登録する計画だとされる。

ただし、このようなシステムはウイグル人にとって特に脅威だと、中国の新疆政策に詳しい米ワシントン大学の人類学者ダレン・バイラーは言う。「ウイグル人には法定代理人も制度的な支援もなく、中国当局は彼らを意のままに実験台にできる。1940年代に欧米で広まった優生思想と、現代の中国における生物医学の武器化が似ていることは、いやでも分かる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中