最新記事

動物

新型コロナウイルスを媒介したかもしれない「センザンコウ」って何?

Wait, What’s a Pangolin?

2020年2月20日(木)16時30分
シャノン・パラス(科学ジャーナリスト)

刃物のように鋭いうろこが漢方の原料に Uniquesafarieye/iStock.

<硬いうろこはさまざまな病気の治療効果が期待できるとして密売の対象になり絶滅が危惧されている>

中国を中心に感染が拡大している新型コロナウイルスは、動物(おそらくコウモリ)からヒトに感染した可能性が高いとみられている。中国の研究者たちは2月7日、ウロコのある哺乳類センザンコウから検出されたコロナウイルスの遺伝子配列が、世界を騒がせているウイルスとほぼ一致したと発表。ウイルスがコウモリからセンザンコウを介してヒトに感染した可能性(あくまで可能性!)があると示唆した。また別の研究チームは論文(草稿)の中で、新型コロナウイルスはコウモリとセンザンコウの菌株が混ざってできた可能性があると説明している。

センザンコウがニュースになったのは、今回が初めてではない。2019年10月には、中国で密輸されたセンザンコウのウロコ約25トンを押収された。2月15日は「世界センザンコウの日」でもある。だが、世界人口の60~70%はセンザンコウをまだ知らない。「そもそもセンザンコウって何?」と思っている人のために、説明しよう。

センザンコウは小型の哺乳類で、全身が硬くて鋭いうろこに覆われている。例えるなら、手足のついた松ぼっくりや装甲車のような感じだ。大きさはチワワ程度のものもいれば、ゴールデン・レトリバーぐらいに成長するものもいる。


地球上で最も密売される哺乳類

グーグルでは「子どもをおんぶしたセンザンコウ」の画像の検索結果が人気だ。泥浴びが好きで、アリを餌にする。危険を感じると柔らかい腹部をかばって体を丸め、硬いうろこで外敵から体を守る。そうなると、ライオンの強力な牙も通用しない。

センザンコウに注目すべき理由はほかにもある。ナショナル・ジオグラフィックによれば、センザンコウは地球上で最も密売されている哺乳類だ。毎年、何千頭ものセンザンコウが密猟者たちに殺されている。中国では、そのウロコは感染症から癌に至るまで、あらゆる病気の治療に効果があると信じられている(信じられている、というだけ)。また胎児を食べると精力がつくとも考えられている。密猟でアジアのセンザンコウの数が減ると、今はアフリカの生息地が狙われている。

その結果、8種類いるセンザンコウの全てが絶滅危惧種や危急種に分類されている。ウロコ(成分は私たちの爪と同じ)の販売は法律で禁止されているが、あるアメリカ人ジャーナリストが中国語で「センザンコウのウロコ」と書いた紙を持って中国の市場を回ったところ、1時間もしないうちに売り手が表れたという。

つまり新型コロナウイルスの発生地である中国では、ヒトとセンザンコウの間に日常的な接触があったということだ。そこからウイルスがうつった可能性はあるかもしれない。しかし、センザンコウが自然のままに生きることを許さなかったのは人間だ。密猟者に捕獲されたセンザンコウは、小さくて身動きもできない容器に放り込まれ、ろくに餌ももらえず不潔なままに放置される。そんな環境から、病原体が湧いたとしてもおかしくはない。

<参考記事>世界人口の6~7割が存在も魅力も知らないまま絶滅させられそうな哺乳類センザンコウを追うドキュメンタリー

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中