最新記事

新型コロナウイルス

今日も市場で生きてるコウモリ販売するインドネシア 新型コロナ感染ゼロの理由とは

2020年2月18日(火)20時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20200218_201056.JPG

ジャカルタ東部にある「プラムカ市場」の裏手には「鳥市場」があるが、そこにいるのは鳥だけではなく...... 撮影=筆者

新型コロナウイルスを心配せず

インドネシアではスラウェシ島北部にある北スラウェシ州マナド周辺に住むキリスト教徒がコウモリ、イヌ、ネズミを食用とする習慣があり、現在も市場ではすでに焼かれた状態のコウモリなどが売られている。市内の食堂ではコウモリ・カレーも人気メニューで知らないで食べればほとんど「チキンカレー」と変わらない味だ。

30年前から、人によっては40年前からあるというこのジャカルタの伝統的な鳥市場で働く人は誰もが新型コロナウイルスのニュースが連日テレビや新聞で報じられていることは知っている。しかし人からの感染や市場で売られている鳥類、動物類からの感染などの可能性に関しては「全然心配ない」と口を揃える。

実際、マスクを並べて販売している表側の「プラムカ市場」も、裏手の「鳥市場」の方もマスクをしている人は風邪気味で咳をしているごく少数の人を除いてほとんどみかけなかった。

これまで感染者ゼロを続けているインドネシアに対してハーバード大学の学者などが「統計的にみてゼロはおかしい」などと疑問を投げかけ、インドネシア政府が公式に抗議するなどゼロを巡る様々な憶測、観測、分析が飛び交っている。

感染者ゼロの要因3つ

そうした中でインドネシア人医療関係者がマスコミなどを通じて示している「感染者ゼロの3つの要因」というのが広く流布している。①気候、②食習慣・食文化、③免疫の3点だ。

気候は国土の大半が赤道に近い熱帯雨林気候で年間の平均気温は32.1度と高温であり、ウイルスが熱に弱いことと関係しているというのだ。同じような気候の隣国シンガポールは感染者が75人(2月17日現在)だが、シンガポールは建物という建物、交通機関などがすべてギンギンに冷房された状態でなおかつ閉鎖空間であるのに対し、インドネシアは都市部を除けば冷房もなく吹きさらしの屋外が生活環境というケースが多いからだという。

食生活・食文化ではインドネシアでは一部の民族を除いてコウモリ、ヘビ、トカゲなどを食べる習慣がないこと、またあらゆる食材を揚げる、煮る、炒めるなどして加熱するためウイルスが死滅するというのだ。日本人のように魚貝、卵、牛肉馬肉などの生食を文化としてしないということも関連しているという。

最後の免疫はやや自虐的だが、衛生環境のあまりよくないインドネシアではあらゆるところに細菌、ウイルスが溢れ、幼少の頃から感染、そして治癒を繰り返しているためインドネシア人の体にはウイルスへの免疫ができているというものだ。

いずれも科学的に証明されたものではないが、インドネシアでは今日までの感染者ゼロの背景にこの3要因があると信じている人も多い。

ジョコ・ウィドド大統領らは感染者ゼロを続けるために中国との定期航空便を全面運休するとともに過去14日間の中国訪問歴のある渡航者の入国を制限、家禽類の中国からの輸入禁止措置など水際対策を強化している。

中国・武漢からチャーター機で帰国させたインドネシア人約200人も14日間隔離したのは南シナ海南端のナトゥナ島という絶海の孤島のような場所にある軍施設、と感染予防の隔離も徹底している。

これまで続いた感染者ゼロを今後も続けたいという官民挙げての「意地」のようなものが感じられるが、それが今後の対応で隠蔽や誤診につながらないことを願いたい。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ビザ免除制度のSNS情報提出義務付け案、観光客や

ワールド

米誌タイム「今年の人」はAI設計者ら、「人類に驚き

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」

ワールド

米、新たな対ベネズエラ制裁発表 マドゥロ氏親族や石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中