最新記事

日本社会

できる子、裕福な子が標的になる、日本のいじめの特異な傾向

2020年1月29日(水)15時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

日本のいじめの要因は諸外国とはかなり異なっている skynesher/iStock.

<世界のほとんどの国では富裕層より貧困層の生徒が、成績良好より成績不良の生徒がいじめを受けやすいが、日本は違う>

いじめが社会問題化して久しい。対策を考えるには実態の把握が不可欠なので、文科省が毎年、全国の学校で認知されたいじめの件数を公表している。最近10年間の変化を見ると、2008年度の4万807件から2018年度の42万5844件へと激増している。近年、いじめの認知に本腰が入れられるようになっているためだ。

だが現実に起きているいじめは、これよりもずっと多いだろう。経済協力開発機構(OECD)実施の学習調査「PISA 2018」によると、日本の15歳生徒の17.3%が「月に数回、何らかのいじめを受ける」と答えている。同年の小・中・高校生の全数にかけると227万人ほどで、統計上の認知件数の5倍を超える。いじめは外部から見えにくく、当事者の申告のほうが信ぴょう性は高い。

15歳生徒のいじめ被害率だが、国別に見ると大きな違いがある。日本の17.3%は、調査対象国の中では下から6番目と低い。首位はフィリピンの64.9%、2位はブルネイの50.1%、3位はドミニカの43.9%と、上位には発展途上国が多くなっている。先進国のイギリスは27.9%、アメリカは25.9%という具合だ。

何をもって「いじめ」というかが国によって異なるため、この数値の比較はあまり意味がない。しかし「どういう子がいじめられやすいか?」という問いを立てると、日本の特異性が露わになる。「PISA 2018」の結果報告書(第3巻)に、富裕層の被害率が貧困層より何ポイント高いか、成績良好の生徒の被害率が成績不良の生徒より何ポイント高いか、というデータが国別に出ている。前者を横軸、後者を縦軸にとった座標上に74か国を配置したグラフにすると、<図1>のようになる。

data200129-chart01.jpg

多くの国が左下の象限に位置している。富裕層よりも貧困層、できる子よりもできない子がいじめられる国だ。貧しくて身なりがよくない子、勉強ができない子がいじめられやすい、というのは分かりやすい。しかし日本だけは右上の象限にある。裕福な子、できる子がいじめられる社会だ。

どちらがいいという話ではないが、日本の国民性が出ているようで興味深い。同調圧力、出る杭は打たれる、和を以て貴しとなす......。こうした土壌に加え、受験社会で勉強の出来が重視される国だから、成績のよい生徒への妬みは殊に強くなる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏「銀行が支持者を差別」、JPモルガンなど

ワールド

プーチン氏は「人殺しやめる」、エネルギー価格下落な

ワールド

米、医薬品関税を段階的に250%に引き上げ 当初は

ビジネス

米貿易赤字、6月は16%減の602億ドル 対中赤字
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 9
    永久欠番「51」ユニフォーム姿のファンたちが...「野…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 7
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 8
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 9
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中