最新記事

感染症

中国が新型コロナウイルスに敗北する恐怖

How to Tell What’s Really Happening With the Wuhan Virus

2020年1月27日(月)19時25分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

廊下の遺体は、通常の原因で死亡した患者で、いつもの通り手が回っていないだけだったのではないかと思われる。中国の医療を知る人にとっては常識だが、中国の病院はもともと混沌とした空間で、患者が廊下、ときには駐車場の床に座って点滴を受けることも少なくない。そこに流行病の発生と隔離が加われば、すべてが崩壊する。医療用の救急ダイヤル120に電話をかけても、ほとんどの場合応答はない。

そこに、もう一つの恐ろしい可能性がある。病院自体がウイルスの感染源になる、ということだ。すでに少なくとも14人の医療従事者が感染しているという(1月25日には、武漢で患者を診ていた医師が新型肺炎で死亡した)。また、マスクと手袋を使い果たした医療スタッフの間で感染が広がっているという報告もある。助けを求めてやってくる患者に加えて、症状の原因がウイルスではなく通常の風邪である患者でさえ、結局は感染してしまうことになるのだ。

中国ではパニックが起きているのか?

封鎖された地域内ではおそらく、パニックが起きている。ソーシャルメディアを介して得られる断片的な画像からは、たいへんな恐怖が伝わってくる。しかし、暴動や騒乱、警察との衝突、または隔離地区からの脱出といった話はない。それがいい兆候であることを望みたい。>

武漢の外の人々は不安にかられながらも平静を保っているようだ。労働者やコミュニティセンターの広範なネットワークなど、中国特有の制度がパニックを防ぎつつ情報を提供するのに役立っている。予想通り、マスクの着用や手の消毒が実施されている。最も気になるのは、一部の市町村が独自の封鎖措置をとり、旅行者を締め出していることかもしれない。夜遅くに村の門を通ったことがある人ならわかると思うが、地元の人が非公式の料金所を設置し、通行料を強要することがあるので、厄介なことになりかねない。

情報統制は重要な事実を隠すことになるかもしれない反面、恐らくパニックが起きる可能性や根拠のない噂を減らす役に立つだろう。

情報統制が届かないアメリカの中国語チャットグループとフォーラムは、中国本土よりはるかにパニックに陥っているようだ。たとえば、武漢の学校から訪米する学生グループのことをひどく怖がったり、医薬品の買い占めを呼びかけたりしている

また、新疆ウイグル西部地区在住で中国政府に迫害されて亡命したトルコ系少数民族ウイグル人の間にも、噂が広がっている。コロナウイルスは中国がウイグル人を使って人体実験した生物兵器の副産物ではないかという噂もあれば、百万人以上のウイグル人が閉じ込められている収容所でウイルスの感染が起きれば、壊滅的な悲劇が起きるのではないかという懸念も囁かれている。

(翻訳:村井裕美、栗原紀子)

From Foreign Policy Magazine

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロビンフッド、EU利用者が米国株を取引できるトーク

ワールド

トランプ氏、シリア制裁解除で大統領令 テロ支援国家

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中