最新記事

中国社会

新型肺炎の最大の犠牲者は中国の貧困層

The Poorest Will Be Hit Hardest

2020年1月25日(土)17時45分
ルイ・チョン(ウッドロー・ウィルソン国際研究センター米中研究所プログラムアシスタント)、ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

医療の資源は、政策によって大都市や首都圏に集められている。中国人医師の大半は学部レベルかそれ以下の教育しか受けておらず、資格のある臨床医師(アメリカの医学博士に相当)は大都市の病院にしかいない。それらの病院も今や患者であふれ、スタッフはパンク寸前だ。

公的な医療保険も近年は拡充されているが、社会保障は戸口(戸籍管理制度)と結び付けられている。戸口の登録は基本的に出身地に縛られ、居住地や受けられる教育、公共サービスも限定される。

従って、地方の住民が、優秀な医師のいる都市部の病院で公的保険を使って受診することはできない。戸口のある土地から遠く離れた所で働く出稼ぎ労働者は、保険を全く利用できない。

彼らは命の危険が迫るまで病院に行かず、自分で治そうとするか、伝統的な民間療法に頼る。日常的に健康状態が悪くウイルスの影響を受けやすいため、風邪と勘違いしやすくなる。

magw200125-corona03.jpg

武漢市内でマスクを着用して清掃作業をする女性(1月22日) GETTY IMAGES

こうした要因を全て悪化させるのが年齢だ。1月23日に当局が公表したデータによれば、これまでの死者17人の平均年齢は73歳で、大部分を退職者が占める。最もリスクが高いのはより高齢で既往症のある人々という状況に変わりはない。

だが出稼ぎ労働者は適切な年金や良質な医療を利用できず、40~50代以上であることも多い。若い頃から同年代の中流層に比べて過酷な労働条件で働いてきた人々もいる。

こうした貧困層は比較的見えにくく、かつ軽視されていることも、中国当局が公式発表している患者数(22日時点で500人以上)が外国の推計(1700人以上)と大きく懸け離れている一因だ。当局は患者の存在を隠蔽しているというより、患者を見つけられずにいるのかもしれない(恐らくその両方だろう)。

1月中旬から市内全域と他の交通の要所で診断などが無料になった(義務付けられた)ことで、こうした状況はいくらか改善されるだろう。だが、医療施設は都心部に集中しがちで、新型肺炎と診断されても十分な治療を受けられない可能性もある。

過去の四川大地震や唐山大地震への対応でも、国は都市部を優先し、農村部の住民は自分たちで対処せざるを得なかった。武漢では市民の足であるバスや地下鉄やフェリーなどの公共交通機関が運行停止に。低所得層の看護師や若手の医師などがシフト勤務のために移動するのに支障が出る恐れもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救

ワールド

トランプ氏、イランに合意期限「6日」 米戦闘機乗員

ワールド

米、イランで不明の戦闘機乗員救出 トランプ氏「史上

ワールド

イラク南部の巨大油田に攻撃、3人負傷 イラン国境に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 6
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 7
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中