最新記事

月探査

「月の砂」から酸素を抽出、実用化に向けてテストプラント開設

2020年1月24日(金)17時10分
松岡由希子

アポロ11号で月面調査時に付けられた足跡  NASA / Buzz Aldrin

<欧州宇宙機関(ESA)は、月のレゴリス(堆積物)から酸素を効率的に抽出する新たな手法を開発した、と発表した......>

月に酸素は存在しないが、月面に積もった土や岩の細粒物、砂れき、塵などのレゴリス(堆積物)は、重量のうちの40%から45%を酸素原子で占めている。

これらの酸素原子は鉱物や硝子といった物質と化学結合して酸化物を形成するため、酸素として利用するためには、酸化物から酸素を抽出しなければならない。従来、水素原子によって酸化物を還元して水を生成し、さらに水を電気分解して酸素を分離するという手法が用いられてきたが、プロセスが複雑で、効率が低く、実用性に乏しいと考えられてきた。

粉末状のレゴリスを直接、電気分解する

欧州宇宙機関(ESA)は、2019年10月9日、「英グラスゴー大学の博士課程に在籍するベス・ロマクス研究員らの研究チームが、欧州宇宙機関からの助成のもと、月のレゴリスから酸素を効率的に抽出する新たな手法を開発した」と発表した。

moon-oxygen.jpg

この手法は、イオン性の固体を高温にして融解させてこれを電気分解する「溶融塩電解」により、従来の還元プロセスを省き、粉末状のレゴリスを直接、電気分解するのが特徴だ。一連の研究成果は、学術雑誌「プラネタリー・アンド・スペースサイエンス」に掲載されている。

研究チームによる実験では、月のレゴリスの化学的性質や粒子のサイズを正確に再現したレゴリスシミュラント(月面模擬砂)をメッシュかごに投入し、電解質として塩化カルシウムを加え、摂氏950度まで熱したうえで、電流を流してレゴリスから酸素を抽出。15時間で75%の酸素を抽出し、50時間で96%の酸素を抽出することに成功した。利用可能な状態で抽出された酸素は全体の3分の1にとどまったものの、今後の改善次第で、その効率性を高められる余地は十分にあるという。また、レゴリスシミュラントから酸素を除去したことで、副産物として合金も生成された。

activities_in_a_Moon.jpg宇宙基地イメージ図 ESA

2020年代半ばには、テストプラントを月で稼働させる

欧州宇宙機関(ESA)では、このような研究成果をふまえ、2020年1月17日、オランダ西部ノールドウェイクの欧州宇宙技術研究センター(ESTEC)に専用テストプラントを開設した。

「溶融塩電解」によるレゴリスシミュラントからの酸素抽出手法のさらなる改善をすすめるとともに、これによって生成される合金の活用についても研究をすすめる計画だ。2020年代半ばには、レゴリスから酸素を抽出するテストプラントを月で稼働させることを目標としている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中