最新記事

英王室

人種差別と偏見にまみれたイギリスから、ヘンリー王子とメーガン妃が逃げ出すのは当然

Meghan Markle’s Mutiny

2020年1月21日(火)16時00分
ヤスミン・アリバイブラウン(英ジャーナリスト)

ヘンリー王子夫妻は当初からバッシングにさらされ続けてきた HANNAH MCKAY-REUTERS

<亡き母ダイアナを追い詰めた力からヘンリー王子は家族を守りたいだけ>

英ヘンリー王子とメーガン妃は高位王族の地位から退くと発表したことで、王室に反旗を翻した。悪意あるメディアや自分たちを批判する人々に対抗し、家族がより自由に過ごせる道を選んだのだ。

衝撃を受けた伝統主義者たちは、全ては「高慢な黒人アメリカ人の妻」のせいだと批判している。あの「あばずれ女」が王子の心も頭も溶かしてしまったのだと。

人気作家のフィリップ・プルマンはこうした見方を人種差別だと指摘し、ツイッターで「何て卑劣な国なんだ」と批判した。これでは王子夫妻が逃げ出したくなるのも当然ではないか──。

2018年のヘンリー王子とメーガン妃の結婚は、華々しいロイヤルウエディングとしてだけではなく、その象徴的な意味でも注目された。理想主義者や人種的マイノリティーの中には、人種差別や植民地主義に終わりが見えたと持ち上げた人もいた。

白人の母と黒人の父を持つブッカー賞作家のバーナディン・エバリストも、2人の結婚にはバラク・オバマの米大統領選勝利に匹敵する意味があると位置付けた。「イギリスはここまで来たということを明確に表す出来事だった」

いや、そんなことは全くない。私を含む現実主義者は、楽観的過ぎる人たちにうんざりしていた。メーガンがその一員になろうとしている家族と国は、見掛けとは全く違うと、私は2018年に本誌に書いた。

大半のアメリカ人は、イギリスの本当の歴史や政治、社会を知らない。彼らにとってこの国は王室と古風な伝統と、田園地帯のパブと偉大なポップミュージックの国だ。美しく聡明なメーガンも、自分が加わるイギリスはそんな国だと思っていたのではないか。

王子とメーガンが出会ったのは2016年7月。その1カ月前の国民投票ではブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐって世論が真っ二つに割れた。移民や有色人種への敵意が強まった時期でもあった。

羽を抜かれたメーガン

黒人で現代的なフェミニストであるメーガンは、そんな敵意を抱く人々の格好の標的となった。偏見に満ちたジャーナリストは、メーガンが妻より愛人に向いているとか、「あちら側の出身の人」などと書き立てた。

王室の教育係は、メーガンの翼から羽を1本ずつ抜き取っていった。自分らしくあることをやめ、王族らしくなることが求められた。

結婚式が終わり、しばらくやんでいた攻撃がまた始まった。メーガンのやることなすこと全てが批判された。アボカドをのせたトーストが好きだと言えば、単なるこじつけで「殺人や干ばつを助長している」と書かれ、テニスのウィンブルドン選手権にジーンズ姿で行けば「不快」だと言われた。ソーシャルメディアはさらにひどい言葉であふれ、王室のスタッフも彼女を敬遠した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中