最新記事

感染症

新型肺炎パンデミックの脅威、真の懸念は中国の秘密主義

Another Epidemic Brewing in China

2020年1月14日(火)19時30分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会・元シニアフェロー)

magw200114_epidemic3.jpg

SARSでは700人以上が死亡(2003年5月) REUTERS

武漢市の保健委員会が初めて警鐘を鳴らしたのは12月30日で、公式サイトに「原因不明の肺炎の治療に関する緊急通達」を掲載した。地元メディアが委員会に問い合わせたが、患者は27人で、その大半が華南海鮮市場と何らかの関係がある、という情報しか得られなかった。患者は呼吸困難を起こし、白血球数が減少して高熱を伴い、抗生物質が効かなかった。ウイルス感染が疑われた。

翌31日、湖北省当局は「27人にウイルス性肺炎の症状が見られ、ウイルス性の肺炎もしくは肺疾患に感染していると診断された。うち2人は快方に向かっており、すぐに退院できそうだ」と発表した。

その夜、香港では、武漢を訪れた3人が呼吸困難を訴えて入院していることが分かり、香港当局は警戒を強化した。そのうち女性1人は、SARS患者を数多く受け入れた病院で治療を受けた。

シンガポールと台湾も、空港や駅で乗客の体温検知を強化。謎の感染症を早めに食い止めようと動いた。

1月1日、武漢の肺炎はSARSと同種のコロナウイルスによる感染症であることを示す医療記録とされる文書が、中国のソーシャルメディアとツイッターに出回った。

中国当局は、SARSを含む複数の肺炎の可能性は排除されたと説明した。謎の病原体は従来のコロナウイルスと同じ種類ではなく、SARSウイルスとは遺伝子が4%未満しか一致しないという。

一方で、武漢で8人が逮捕された。「根拠のない間違った情報をネットで広めた」罪で厳罰を受けることになるとも、中国当局は発表。上海のニュースサイト、シックスス・トーンのデービッド・ポーク編集長は、中国では噂の流布は7年の懲役刑もあり得ると投稿した(現在は削除されている)。

昨年、海南島の海口で鳥インフルエンザA(H7N9)が流行しているという「噂」を微信(ウィーチャット)で流した男性が10日間、身柄を拘束された。2018年にも、汚染されたスイカを食べて数千人が入院したという虚偽の話をした男性が投獄された。

このような噂が簡単に広まる理由はポークが翻訳した微信の投稿(既に削除)を見れば明らかだ。「噂が広まるのは、当局が適宜対応しないからなのに、どうして私たちが責められるのか」

人から人の感染は確実?

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、武漢警察の微信アカウントにはこんな投稿もあった。「流行は実際に起きている。丸一日、正式な発表が何もないから、人々が情報を共有しているだけだ」。同紙によれば、武漢の肺炎患者の家族は情報が入らず、入院している病院さえ分からない人もいる。

香港でも新型肺炎に対する警戒感が高まっている。1月5日に香港中文大学の学生の感染が確認されたときは、この学生が寮から運び出される写真や動画がソーシャルメディアで幅広く拡散された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平合意「極めて近い」 詳細

ワールド

中国の米国産大豆の購入は「予定通り」─米財務長官=

ワールド

ハセットNEC委員長、次期FRB議長の最有力候補に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中