新型肺炎パンデミックの脅威、真の懸念は中国の秘密主義
Another Epidemic Brewing in China
全国規模で人が移動する時期を前に正確な情報が求められる(春節でごった返す浙江省杭州東駅、2019年1月) REUTERS
<SARSの記憶がよみがえる新型肺炎の流行――見えない正体と少な過ぎる情報がアジアを翻弄する>
今に始まったことではない。
中国で謎の病気が流行して、香港やシンガポール、台湾にパニックが広がり、中国政府の正確な発表を世界中が待っている。1990年代に致死的なインフルエンザが猛威を振るったときも、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行したときも、昨秋にペスト患者が確認されたときもそうだった。
昨年12月12日、湖北省の武漢で相次いで原因不明の肺炎患者が出た。少なくとも59人が病院で隔離され、現在7人が重篤な状態とされている。
中国政府は例によって口を閉ざしている。中国人以外の研究者を含む専門チームが病原体の特定を進めており、人から人に感染した明らかな証拠は見つかっていない、と述べた程度だった。
最初の患者が出てから2週間近くたった12月末に、武漢市当局はようやくウイルス性肺炎の集団感染を発表した。1月10日の時点で、武漢で確認された感染者は41人。さらに医療関係者を除く320人が患者と接触したとみられ、経過観察中だ。(編集部注:1月11日に当局がこのウイルスによるとみられる初の死者が出たと発表)
感染拡大の一因は、情報の遅れだ。香港でも少なくとも16人の感染が確認され、シンガポールでは疑いが1人。そして中国政府は、今回の肺炎の詳しい情報をソーシャルメディアに流した人々に、懲役刑をちらつかせている。
疾病の大流行に対する中国政府の冷酷さと秘密主義は、習近平(シー・チンピン)政権にとって好ましいものでは決してない。正式な科学的調査の最中だとしても、説明責任の欠如や、噂の流布(と彼らが呼ぶもの)に対する厳格な取り締まりは、国際社会の不信感を増大させている。事実を隠蔽しているのではないか、実はもっと大規模な流行ではないのか、と。
迫る春節の帰省ラッシュ
世界のメディアの大半は、「武漢肺炎」を2003年のSARSに重ねている。SARSは中国本土から約30カ国に広まり、8000人以上が感染し774人が死亡。世界中をパニックに陥れた。
当時アジア全域の怒りを買った中国指導部は、あの屈辱の教訓を胸に、今回は情報を日々更新するのが賢明だろう。特に、1月25日の春節が迫っている。春節の帰省では、数千万人の高速鉄道利用客が武漢を経由するのだ。
今のところ、感染は武漢市内の大規模な屋内の海鮮市場か、その周辺から始まったとみられている。人口1100万人を超える武漢は中国中部に位置する湖北省の省都で、市内を揚子江(長江)と漢江が流れ、中国で最も歴史のある商業中心地の1つだ。毎日数百万人が利用する中国の高速鉄道網のハブでもある。
つまり、今回の肺炎の流行は、2018年夏からエボラ出血熱の流行が続く、コンゴ民主共和国の遠く離れた村での話ではない。一国の主要都市であり、国際的な貿易と移動の中心地で起きているのだ。