最新記事

LGBTQ

紅白歌合戦になぜレインボーフラッグ? NHKに聞いてみた

2020年1月24日(金)18時20分
大橋 希(本誌記者)

――少しずつ変わってきてはいるが、日本ではまだLGBTの権利擁護が大きな潮流になっていない。そのなかで、「国民的番組」と言える紅白のトリにレインボーフラッグをもってきたのは画期的だった。一方で、理解できない視聴者も多かったのではないか。「娘に聞いて意味が分かった」とSNSに書き込んでいる人もいた。

そうですねぇ......僕らはMISIAと日頃から付き合っているから、彼女が(紅白で)表現したいことは非常に理解できました。だから、誤解を招いたり、セクシャルマイノリティーの当事者の方が違和感を持たれるような表現ではなく、きちんと伝えるにはどうしたらいいかという議論にはかなり時間をかけた。結局、ああいう演出になったんですが、強いて言えば、あまり説明をしなかったということかもしれない。

――意図的に説明をしなかった?

昨年12月6日に「LIVE PRIDE(ライブプライド)」というMISIAが出演したライブがあった。そのイベントに向けてMISIAのラジオでも何度か、「星屑スキャット」とか「八方不美人」とか、出演するドラァグクイーンのみなさんにゲストとして来てもらった。彼らがLIVE PRIDEをMISIAとどう作り上げるかを僕は横で見ていて、すごく気を付けながら作っていることが分かったし、LGBTムーブメントを引っ張って行こうというエネルギーを感じた。

だから、LIVE PRIDEでやっているようなことを、彼らが作り上げているエンターテインメントを余計な説明を加えずにそのままやればいいんじゃないかと思ったんです。

――例えば、曲紹介のときにプライドやレインボーフラッグの意味などを説明する演出もあり得た?

今だから言えますけど、曲のプレゼンテーションをどう作り上げるかについては、本当にいろんな案があったんです。

例えば、MISIAはアフリカの支援活動や社会貢献みたいなことをやってきて、そのなかにLGBTQ支援があり、今年はLIVE PRIDEっていうイベントがあって......という説明をする案があった。でも僕は、そうしたVTRを流して説明したところで、視聴者は「早くMISIAを見たい、聴きたい」ってなるだろうし、余計なことは言わないほうがいいな、と思ったんです。

NHKでよくあることですが、説明過多になってしまう恐れがあった。そこはすごく議論したんですが、正解がなくてですね......。「レインボーフラッグを見て勇気づけられた」という人もいれば、「あれ何?」となった人も多かったはずですが、でも、あの6色で何が表現されているかが分からない人にとっては考えるきっかけ、会話が生まれるきっかけにはなったと思う。

2曲目の「INTO THE LIGHT」はMISIAの初期の名曲(98年)。ドラァグクイーンとステージを作り始めた頃の曲です。彼女が昨日のラジオで「INTO THE LIGHT」はドラァグクイーンをイメージして作った、と言っていて、「へー」って思ったんですけど。

――加藤さんとMISIAさんの長い付き合いがあったからこそ可能な演出だった?

僕以外のプロデューサーだったらどう判断したかは分からないが、例えば今回担当したディレクターは開口一番、「いいですね」と言っていました。

2020年にオリンピック・パラリンピックで世界中のアスリートや関係者、観客が大勢やって来れば、日本社会における多様性やセクシャルマイノリティーへの配慮みたいなことがどこまで行き届いているかは必ず見られる。セクシャリティーだけじゃなくて人種だったり、年齢だったり、いろんな意味で社会がどこまで気遣いをしているか、と。

昨年のラグビー・ワールドカップの期間中には「プライドハウス東京」(LGBT情報の提供やイベントを行う交流スペース)が作られ、そこを大勢の選手や関係者が訪れた。そういうムーブメントが日本でも起こりつつあると世界に発信することは大事でしょう。

64年のオリンピックのときみたいに高速ができたり、街が生まれ変わったりというのはないかもしれない。でも何かが変わるという意味では、ダイバーシティーをきちんと表現するということを紅白みたいなある種、メインストリームの番組でやってみる価値はあると僕らは思った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中