トイアンナ×田所昌幸・師弟対談「100年後の日本、結婚はもっと贅沢品に」
田所 女性しか子供を産めないというところが、男女を分けている最後の条件ではないかと私は考えていますが、100年後にはその条件が技術的に変わる可能性はありますよね。そうなるとどうなるでしょうね?
アンナ 現在、子宮をどのように外部的に作るかの研究が二方向で進められています。一つがiPS細胞、もう一つが試験管スタイルです。しかし、後者は技術的にかなり難しいようなので、前者の「人工子宮」で解決されたときに、日本ではやや思い切ったたとえを使えば、ウナギと同じことが起こるはずです。
田所 なるほど、「天然物」と「養殖物」とね。やっぱり「天然物」はいいとか言われたりするのですね(笑)。
アンナ はい(笑)。「子宮の胎動も知らずに産んだ母親なんて母性がない」と、天然物が養殖物をこきおろしにいきますよ! そして結婚マーケットに参入したときに、「養殖物とは結婚したくない」とか、言い出す人が出てくると思います(苦笑)。
田所 なるほどね。そうなるとセックスパートナーとしての意味はあっても、女性と男性というカテゴリーそのものに意味がなくなる。今やLGBTの時代ですからね。
アンナ もう「つがい」が意味はないですね。実際、「男」と「女」は、かなり近づいており、これからも近づいていくと思います。
今の世相が反映される「100年後の日本」予測
田所 ここで他の特集寄稿者の話をすると、デイヴィッド・A・ウェルチ先生の「名探偵コナンはまだ続いている」は傑作です。「サザエさん」はもう終わっているけれど、「名探偵コナン」は2120年にも続いているというオチで終わります。
アンナ 確かに「名探偵コナン」は家族観に影響されにくい人物設定ですよね。それに比べると三世代でお婿さんも同居する「サザエさん」は、今もすでに理解しづらいですよね(笑)。
田所 今回、皆さんが寄稿してくれた論考は全体に悲観的なものが多い印象です。世相が反映されているのだと思います。
しかし、アンナさんが寄稿してくれた「ぜいたくは敵だから、結婚しません」も一見悲観的ですが、逆説的な楽観論ですよね。世の中あんまり面白くないけれども、100年後も地味でつまらない世の中が続いているといいな、と。下手に派手で英雄的なことは暴力や貧困につながるので、退屈な世界を面白がりながらやりくりしていくのがよいのだということでしょうか。
100年先ともなれば、悲観的であれ楽観的であれ、いろいろな世界が描けますが、ともあれ宿命論はやめようじゃないかということは、この特集から伝わればいいと思っています。可能性でしかありえない未来に向かって、われわれが今をどう生きればよいのか。そのプロセスから何かしらの充実感が出てくるのではないでしょうか。『アステイオン』のこの特集も、そういった活力につながるとよいのですが。
■お知らせ■
『アステイオン91』刊行記念講演会「100年後の学問と大学」
論壇誌「アステイオン」の編集委員を務める池内恵、待鳥聡史の両教授が、100年後の教育・大学について予想しつつ、 これからの学問について必要なこと、若い世代に伝えたいことなどを語り合います。
●日時:2020年1月24日(金)19時~
●場所:東京大学駒場キャンパス
●登壇者:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)+待鳥聡史(京都大学法学研究科教授)
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【参考記事】なぜ私たちは未来予想が好きなのか?
『アステイオン91』
特集「可能性としての未来――100年後の日本」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス