最新記事

対談

トイアンナ×田所昌幸・師弟対談「100年後の日本、結婚はもっと贅沢品に」

2020年1月8日(水)15時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

田所 女性しか子供を産めないというところが、男女を分けている最後の条件ではないかと私は考えていますが、100年後にはその条件が技術的に変わる可能性はありますよね。そうなるとどうなるでしょうね?

アンナ 現在、子宮をどのように外部的に作るかの研究が二方向で進められています。一つがiPS細胞、もう一つが試験管スタイルです。しかし、後者は技術的にかなり難しいようなので、前者の「人工子宮」で解決されたときに、日本ではやや思い切ったたとえを使えば、ウナギと同じことが起こるはずです。

田所 なるほど、「天然物」と「養殖物」とね。やっぱり「天然物」はいいとか言われたりするのですね(笑)。

アンナ はい(笑)。「子宮の胎動も知らずに産んだ母親なんて母性がない」と、天然物が養殖物をこきおろしにいきますよ! そして結婚マーケットに参入したときに、「養殖物とは結婚したくない」とか、言い出す人が出てくると思います(苦笑)。

田所 なるほどね。そうなるとセックスパートナーとしての意味はあっても、女性と男性というカテゴリーそのものに意味がなくなる。今やLGBTの時代ですからね。

アンナ もう「つがい」が意味はないですね。実際、「男」と「女」は、かなり近づいており、これからも近づいていくと思います。

今の世相が反映される「100年後の日本」予測

田所 ここで他の特集寄稿者の話をすると、デイヴィッド・A・ウェルチ先生の「名探偵コナンはまだ続いている」は傑作です。「サザエさん」はもう終わっているけれど、「名探偵コナン」は2120年にも続いているというオチで終わります。

アンナ 確かに「名探偵コナン」は家族観に影響されにくい人物設定ですよね。それに比べると三世代でお婿さんも同居する「サザエさん」は、今もすでに理解しづらいですよね(笑)。

田所 今回、皆さんが寄稿してくれた論考は全体に悲観的なものが多い印象です。世相が反映されているのだと思います。

しかし、アンナさんが寄稿してくれた「ぜいたくは敵だから、結婚しません」も一見悲観的ですが、逆説的な楽観論ですよね。世の中あんまり面白くないけれども、100年後も地味でつまらない世の中が続いているといいな、と。下手に派手で英雄的なことは暴力や貧困につながるので、退屈な世界を面白がりながらやりくりしていくのがよいのだということでしょうか。

100年先ともなれば、悲観的であれ楽観的であれ、いろいろな世界が描けますが、ともあれ宿命論はやめようじゃないかということは、この特集から伝わればいいと思っています。可能性でしかありえない未来に向かって、われわれが今をどう生きればよいのか。そのプロセスから何かしらの充実感が出てくるのではないでしょうか。『アステイオン』のこの特集も、そういった活力につながるとよいのですが。

■お知らせ■
『アステイオン91』刊行記念講演会「100年後の学問と大学」
論壇誌「アステイオン」の編集委員を務める池内恵、待鳥聡史の両教授が、100年後の教育・大学について予想しつつ、 これからの学問について必要なこと、若い世代に伝えたいことなどを語り合います。

●日時:2020年1月24日(金)19時~
●場所:東京大学駒場キャンパス
●登壇者:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)+待鳥聡史(京都大学法学研究科教授)
詳しくはこちら

【参考記事】なぜ私たちは未来予想が好きなのか?


アステイオン91
 特集「可能性としての未来――100年後の日本」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中