最新記事

健康寿命

年金維持のためどの国より健康であり続けなければならない日本──引退年齢と健康寿命の国際比較

2019年12月26日(木)17時00分
清水 勘(ニッセイ基礎研究所)

前頁3.で日本は高齢者扶養率が群を抜いて高く、現役世代がより多くの高齢者を支えている。しかし、その高齢者でさえ他国との比較で見るとより長く働き、稼ぎ続けなければならないという日本の実態が浮かび上がる。

5──立ちはだかる健康寿命の壁

Nissei191224_6.jpg

日本の高齢者がより長く働くのであれば、その分だけ健康でいる期間も長くあって欲しいものだが、現実は理想とは少し異なる。WHOによる各国の60歳男性の健康寿命4は、平均実効引退年齢ほどのばらつきがなく、どの国も77~79歳の範囲に収まっている。(図表6)

2019(令和元)年の将来の公的年金の財政見通し(財政検証)では本体試算とは別にオプション試算が盛り込まれた。そのオプションのひとつである「就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大」は、受給開始可能期間の年齢上限を現行の70歳から75歳まで引き上げることを想定している。現時点で年金の繰り下げ受給を選択している受給権者は全体の1%程度にすぎないが、今後、これが増えれば高齢者の就労延長が更に進み、欧米諸国と比べ既に高齢化が進んでいる日本の平均実効引退年齢が一層引き上がる可能性もある。しかし、引退年齢引き上げには健康寿命という大きな壁が立ちはだかる。前述の通り、日本の平均実効引退年齢は既に70.2歳。WHOが算出した健康寿命78.7歳との差は僅か8.5年しかない。他方、今回取上げた国の中で最も若いフランスの平均実効引退年齢は60.0歳、健康寿命4と79.1歳とその差は実に19年もある。この平均実効引退年齢と健康寿命の差を将来の高齢者就労延長のポテンシャルを測る物差しと考えた場合、国によってその余地に大きな開きが存在し、特に日本はその余力が欧米と比べ少ないことが分かる。ここからも日本人がどの国よりも健康でなければいけない現実が浮かび上がる。

――――――――
4 WHOのLife expectancy(HALE) at age 60 (years)(60歳時の健康余命)に年齢60歳を加えて算出。尚、WHOの健康寿命は国民生活基礎調査に基づき算出される日本の健康寿命と異なることに留意を要する。(巻末の補足を参照)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中