年金維持のためどの国より健康であり続けなければならない日本──引退年齢と健康寿命の国際比較
6──おわりに
人口の高齢化は年金支出の増加を促す。どの国でも年金改革は避けて通れない課題であり、年金支給開始年齢や引退年齢の引上げは改革の有効なオプションと位置づけられている。しかし、企図する通りに引退年齢を引き上げられるか否かは、引き上げられた分だけ高齢者が健康に働き続けられるかどうかにかかっている。目安のひとつである健康寿命と引退年齢の差は、国によって大きな開きがあり、その中でも引退年齢が既に高い日本は、欧米諸国と比べ両者の差が短く引退年齢の引上げ余力が少ない。健康寿命の延伸が頭打ちとなれば引退年齢の引き上げも困難となり、将来的な年金支給開始年齢引き上げにも影響が及ぶ。WHOによれば、今のところ日本の60歳の男性の健康余命は平均余命に沿って延びている。但し、平均余命に比べると健康余命の延びは小さい。60歳の男性の健康余命と平均余命との差である不健康な期間は2000年の4.5年から2016年には5.0年と伸びており、平均寿命の延伸がダイレクトに高齢者の就労可能期間の延伸につながっていないことが分かる。(図表7)
日本は、既に前人未到の少子高齢化社会に突入している。少子化によって支える現役世代の人数が減少する一方で、高齢化で年金受給世代は増え続ける。高齢者人口は、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)が65歳以上の高齢者となる2040年まで増え続ける見通しだ。鍵となる高齢者の就労機会拡大にむけ健康寿命という高い壁に立ち向かわなければならない。
政府は「経済財政運営と改革の基本方針2019」で健康寿命の具体的な数値目標を掲げ2040年までにその実現を目指している。また、未来投資会議では、高齢者の就業拡大に向けた方針を提示した。高齢化の最先端にいる日本が、こうした取組みを通じて早期に高齢者健康の維持・改善モデルを確立すれば、同様の問題を抱える世界に範を示すことになる。今後の取組みに期待したい。
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5 詳しくは、厚生労働省健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書(2019年3月)を参照
[執筆者]
清水 勘(しみず かん)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部部長 経済政策研究担当