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中南米

麻薬都市メデジンがスマートシティーに──南米版ルネサンスの軌跡

The Medellín Miracle

2019年12月6日(金)17時20分
デービッド・フリードマン

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IT教育も充実を見せる KAVEH KAZEMI/GETTY IMAGES


現在、メデジンでは最低所得層の3分の2がスマホを持つ。ガバリアの働き掛けを受けて約500社が在宅勤務を導入したことは、交通渋滞の緩和につながっている。

2016年から市長を務めるフェデリコ・グティエレスの下で、メデジン市は妊産婦向けのオンライン教育・助言事業も開始した。さらに市内の医療機関のオンライン予約システムが立ち上げられたほか、救急サービスの改革により、救急隊員が現場に到着するまでの時間は37%短縮された。若者の使用を念頭に置いた運動施設も数十カ所新設された。

グティエレスは、引き続き市民のモビリティーを改善するとともに、大気汚染を緩和するため、電気バスを64台増やし、自転車シェアサービスも開始。主要道路には自転車専用レーンを設けた。

行政サービスのオンライン化も進められている。現在は、水道や電気の使用開始、変更、停止手続きはほぼ全てオンラインでできるようになった。市の条例案やプロジェクト案もネットで公開されており、市民はオンラインで意見を表明できる。こうした意見は市当局にとって貴重なインプットとなると同時に、住民には市政に参加しているという実感を与えられる。

スマートシティー化によって、メデジンは1990年代初めの貧困と犯罪がはびこる街から、今や南米でも貧困率と犯罪率は最低レベル、教育と医療へのアクセスでは最高レベルの街へと変身した。しかし何より重要なのは、自分がこの変身の一助になっていると市民が感じていることだと、ガルシアフェラリは指摘する。

メデジンの変身はまだ終わっていない。貧困率はこの20年で48%から急落したが、近年は14%前後で止まったままだ。それでも今までの成果について、市民の間には大きな満足感がある。

それは10月の市長選で、まるでドナルド・トランプ米大統領のような右派候補が完敗したことにもはっきり表れた。勝利したダニエル・キンテロは、かつてコロンビアの副デジタル経済相を務めた人物。歴代市長が力を入れた教育とインフラ、そしてハイテクへの投資を継続すると訴えて、市民の圧倒的支持を得た。

メデジンのルネサンスには、まだまだ終わりが見えないようだ。

<本誌2019年12月10日号掲載>

【参考記事】スマートシティーのスマートでないインドの現実
【参考記事】ドイツに存在する「架空都市」の非存在を証明せよ!?

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