最新記事

BOOKS

毒親を介護する50歳男性「正直死んでくれとも思うんです」

2019年12月25日(水)14時50分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<自分を傷付けてきた親であっても、老いてくれば介護の問題が発生する。そんな親子間の問題を考えるとき、「コーホート」という視点が少しは役立つかもしれない>

親が老いてくれば、(どんなかたちや距離感、規模であるにせよ)子はそれをなんらかの手段によって支えることになる。事実、"当然のもの"としての深い愛情を軸として、献身的に親に寄り添っている人も多いことだろう。

しかし、"そうではない"人たちも存在する。それを明らかにしているのが、『毒親介護』(石川結貴・著、文春新書)の著者だ。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材しているジャーナリストである。


 一方で老いた親との関係に悩み、苦しむ人もいる。たとえば「毒親」を持つ人たちだ。
 毒親とは十数年前から使われる造語で、スーザン・フォワードの著書『毒になる親』(一九九九年・毎日新聞社、二〇〇一年・講談社+α文庫)がもとになったとされる。フォワードは著書の中で、「毒になる」という強烈な表現の理由を次のように述べている。
――世の中には、子供に対するネガティブな行動パターンが執拗に継続し、それが子供の人生を支配するようになってしまう親がたくさんいる。(中略)そういうたぐいの親を一言で表現するのにぴったりな言葉はないものかと考えるたびに、頭をよぎったのは、「有毒な」とか「毒になる」という言葉だった。ちょうど公害を引き起こす有害物質が人体に害を与えるのと同じように、こういう親によって子供の心に加えられる傷はしだいにその子供の全存在にわたって広がり、心を蝕んでいくからであるーー。(『毒になる親』講談社+α文庫より抜粋)(「はじめに」より)

日常的に暴力を振るったり、何かにつけて罵ったり、必要な世話を怠ったり、支離滅裂な言動で振り回したりするような親のことだ。

例えば第1章「親の老いがむき出しにする、過去と家族関係」で紹介されている事例は、毒親と関わることの難しさを見事に言い表しているかもしれない。登場する50歳男性は、妻を亡くしてひとりで暮らす78歳の父親のことで悩む。


 古い食品に汚れた食器、空き缶と空き瓶が山と積まれる中に、黒く焦げた鍋やフライパンが見える。どこからか漂う嫌な臭いの元をたどると、隣の茶の間から変色した男物のズボンが何本も出てきた。尿なのか便なのか、いずれにせよ「これはマズイな」と胸がざわつく。(20ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中