最新記事

プラスチック・クライシス

このアザラシ、海鳥、ウミガメを直視できるか プラスチック危機の恐るべき脅威

A FATAL SEA OF PLASTIC

2019年11月20日(水)17時10分
アリストス・ジャージョウ(本誌科学担当)

magSR191120_5.jpg

サンゴ礁からプラスチックの網を取り除くダイバー KYLER BADTEN-THE OCEAN CLEANUP

マイクロプラスチックの発生源は主に2つ。まずは直径5ミリ未満のプラスチック製品。レジンペレットと呼ばれる未加工のプラスチック樹脂の粒子で、衣服のマイクロファイバーや化粧品のマイクロビーズなどに含まれる。もう1つの発生源は、紫外線の影響や摩滅などで劣化し、粉々になったプラスチックだ。

マイクロプラスチックは海に蔓延しているが、とにかく小さいから追跡しづらい。英学術誌エンバイロメンタル・リサーチ・レターズに掲載された2015年の論文によると、海に浮かぶマイクロプラスチック粒子の数は少なくとも15兆個、多ければ51兆個と考えられる。

プラごみやマイクロプラスチックの約80%は陸から川を経由して海に排出されたものだ。グロスは、「収集されなかったプラごみが下水管から川に流れ込み、海に流れ着いている」と説明する。「それ以外にも、水路やその周辺への不法投棄、埋め立て地から風で飛ばされるものがあり、建設や製造、農業などの産業部門や洗濯排水、さらに下水処理工場から排出されたものもいや応なく海に流れ込む」

残りの20%は船舶に関係したごみで、モーターボートやセーリングなどを楽しむ人が捨てたものもあれば、浜辺に捨てたごみもあり、漁業や養殖などに関連する釣り糸や漁網なども含まれる。

「海洋プラごみのかなりの部分が東南アジアで発生しているのは確かだが、欧米諸国などの先進国はごみやリサイクル資源の多くを東南アジアに輸出している。またプラスチック製品の多くは多国籍企業が製造している。犯人探しは容易でなく、それ自体、意味がないかもしれない」とメンデンホールは嘆く。

海面や海底、海浜堆積物に含まれるプラごみの割合について、正確なデータはない。だが確かなことは、プラごみが海流や天候のパターンによって遠く広く運ばれていき、海底や北極圏にも到達していることだ。主要な海洋環流にも含まれている。

そうした1つで、深刻な汚染状態にあるのがハワイとカリフォルニアの間の巨大な海域で、そこは「太平洋ごみベルト」と呼ばれている。その大きさはフランスの国土の2倍以上ともいわれている。ただし大半がマイクロプラスチックなので、正確な測定は困難を極める。

環境への懸念とは別に、海洋プラごみは経済にも重大な影響を及ぼしている。海岸清掃の費用、観光業の損失、漁業・養殖産業へのダメージを計算に入れると、プラごみ汚染が世界経済に与えている損失は年間で莫大な額になる。

世界経済にもプラごみの脅威

「水産業界の世界市場は1000億ドル規模で、多くの国や自治体が水産物の輸出に依存している」とロルスキーは言う。「プラごみ汚染がそれほど大きな市場を脅かしているという事実は、人の健康だけでなく経済にも脅威だ」

magSR191120_9.jpg

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集23ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東ティモール、ASEAN加盟 11カ国目

ワールド

米、ロシアへの追加制裁準備 欧州にも圧力強化望む=

ワールド

「私のこともよく認識」と高市首相、トランプ大統領と

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中