最新記事

プラスチック・クライシス

このアザラシ、海鳥、ウミガメを直視できるか プラスチック危機の恐るべき脅威

A FATAL SEA OF PLASTIC

2019年11月20日(水)17時10分
アリストス・ジャージョウ(本誌科学担当)

magSR191120_2.jpg

プラスチックの網が絡まったウミガメ NOAA

有毒物質を吸着したプラスチック片を摂取した海洋生物を、より体の大きな捕食者が食べることで、これらの物質が食物連鎖のピラミッドを上っていく。そして頂点にいる生物(人間を含む)の体内に、より高い濃度で蓄積される可能性がある。それだけではない。レンセラー工科大学(ニューヨーク)のリチャード・グロス教授によれば、食物連鎖を通じたプラスチックの体内蓄積は「魚介類の資源量にも深刻な影響を及ぼし......繁殖率や成長を阻害し、生息数の減少を招く」恐れがある。

プランクトンなどの小さな海洋生物が微小なプラスチック片(マイクロプラスチック)を食べていることも知られている。マイクロプラスチックは5ミリに満たない小片を指す。

マイクロプラスチックの摂取が海洋生物の行動や生理機能に及ぼす影響や、食物連鎖の頂点にいる人間の健康にリスクを及ぼす可能性については、まだ詳細かつ長期的な研究が必要とされる。しかし具体的な影響が分からないからといって、これらの物質が人間に害を及ぼさないということにはならない。

magSR191120_4.jpg

プラスチックの網から魚を取ろうとするペリカン RODRIGO GARRIDO-REUTERS

「プラごみを摂取した海洋生物の体内に危険な量の汚染物質があるとすれば、人間の健康にとっても脅威だろう」とロルスキーは言う。「現にカキなどの二枚貝から、プラスチック繊維が検出されている」

「一番リスクが大きいのは魚介類をはらわたごと食べることだが」とロルスキーは警告する。「魚介類の身にも、プラごみと一緒に体内に取り込まれた汚染物質が染み込んでいる可能性は十分にある。またカメのように分厚い脂肪層を持ち長生きする種にも、脂溶性の汚染物質が大量に含まれている可能性がある」

海底や北極圏にまで到達

ロルスキーの同僚のロルフ・ホルデンも、マイクロプラスチックが健康リスクをもたらす可能性があると指摘する。「マイクロプラスチックについてはまだ十分に研究されていない側面がある。しかし人間の体内に生分解できない異物が入ると、それが炎症を引き起こすことは知られている」と彼は言う。

ホルデンによれば、こうした炎症は癌の前段階かもしれない。癌で死亡した人の体内からプラスチックの微粒子が見つかった例は複数あるという。「もちろん、プラスチックが癌を誘発すると言うつもりはない。しかし、海のプラスチック汚染は今や否定し難い事実であり、それが私たちの生理機能や寿命に及ぼす影響は調べる必要がある。この分野の研究はまだ始まったばかりだ」

magSR191120_7.png

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集18ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中