最新記事

プラスチック・クライシス

このアザラシ、海鳥、ウミガメを直視できるか プラスチック危機の恐るべき脅威

A FATAL SEA OF PLASTIC

2019年11月20日(水)17時10分
アリストス・ジャージョウ(本誌科学担当)

magSR191120_6.jpg

太平洋ごみベルトに浮かぶプラごみには海洋生物のかみ跡が KYLER BADTEN-THE OCEAN CLEANUP

世界中のプラスチック生産量は2050年までに4倍に増えると予想されており、当然のことながらプラごみの量も増えると考えられる。では、このプラごみ危機に私たちはどう対処したらいいのか。

「必要なのは政府による規制」だとメンデンホールは主張する。「現在の国際協定は不十分だ。168カ国・地域が批准した国連海洋法条約では、加盟国は『陸由来の海洋汚染を防止、軽減、規制するために必要な措置を講じる』ことになっているが、この規定は曖昧で、抜け穴だらけのため遵守されていない。一方で石油化学業界は、使い捨てのプラスチック容器を消費者が使わざるを得ない状況を生み出すことで大きな利益を上げている」

「選択するのは消費者だが、限界はある。たとえプラごみを増やさないようにしても、先進諸国の典型的なスーパーで買い物をすれば、いやでも大量の使い捨てプラスチック製品が付いてくる。食品包装などの在り方について、まずは先進諸国の政府がきちんと規制すること。それがプラごみ汚染を解決する上で重要だと思う。石油化学業界が有害なプラスチック製品の製造を他国に移すことを防ぐために、国際的な規制も必要だ」とメンデンホールは言う。

ロルスキーも包装材の対策が必要と考えており、プラスチック包装はプラごみ汚染が広がる主な要素の1つだという。「プラスチックのリサイクル率は低い。推定では、これまでに生産された全てのプラスチックの9%しかリサイクルされていない。多くの場合、ペットボトルから合成樹脂繊維に再生されるなど、元より価値が下がる物へとダウンサイクルされているのが現状だ」

「残りのプラスチックごみは焼却される(12%)か、埋め立て地に送られている(79%)。だが埋め立ては万能の解決策ではなく、さまざまな研究では、埋め立て地からマクロおよびマイクロプラスチックが周辺の環境に流出していることが分かっている。こうしたことから、生態系および人の健康のことを考えれば、どこかの時点で使い捨てプラスチック製品との決別が必要になる」とロルスキーは言う。

最後に同僚のホルデンが言い添えた。「現状で分かっていることを考えれば、私たちはプラスチック製品、とりわけプラスチック製の包装材に対する愛着を捨てなければならない。あんなものは、実は便利でも必要でもない。暮らしからも大量生産からも排除すべき失敗作だ。そうしないと、地球の生態系も私たちの健康も守れない」

<2019年11月26日号「プラスチック・クライシス」特集より>

20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中