日本の格差社会が「お客様」をクレーマーにし、店員に罵声を浴びさせる
事実、アンケートを取ってみると、自分たちがストレスのはけ口になっていると感じている従業員は少なくないそうだ。
特に接客業は弱い立場で、攻撃の対象になりやすい。私は、飲食業や福祉関係の仕事で不必要にエプロンをつけるのはよくないのではと感じることがあります。もちろん衛生上不可欠な場合もありますが、エプロンを付けると、どうしても「何でもしてくれる人」という印象を相手に与えてしまう。先日も福祉の仕事をしている人に、「エプロンをはずして、他の作業着に変えてみてはどうですか」と助言したところです。(93〜94ページより)
いずれにしても、いろいろな要因が複合的に絡み合って成り立っているのがこの社会。そのため、何が原因で悪質クレームが増えているのかということを、シンプルな言葉で語り尽くすことなどできないだろう。
だが、これら「過剰サービスによる過剰期待」「情報化社会がもたらす影響」「格差社会の進行」などが大きく影響していることは間違いなさそうである。
しかも恐ろしいのは、カスハラをする人のタイプと傾向、そして心理だ。著者も本書の前半部分で、その点を指摘している。
取材して感じたのは、「普通の人」の恐ろしさだ。クレームを言う側は、自分たちは何も間違っていない、正しいことをしている、と信じている。その顔を見れば、どこにでもいるようなごく普通の人たちだ。
結果的に他人の人生を大きく変えてしまった彼らは、自分たちがこうむった被害に比して、クレームの結果は釣り合う、と考えるだろうか?
おそらく、「自分たちのしたことは正しい」という以外、何も考えないのではないか?
私たちの誰もがクレーマーになる可能性を持っているのかもしれない、と感じた。(65ページより)
そう、最も重要なのは、私たちひとりひとりが「自分ごと」として考えてみることだ。「カスハラをする人と自分は違う人」だと思いがちだが、もしかしたら気づかないうちに、自分たちも誰かを傷つけている可能性もあるのだから。
もちろんそれは、誰だって認めたくないことだ。しかし、敢えてそうやって考えてみれば、何かヒントを見つけることができるかもしれない。
『カスハラ――モンスター化する「お客様」たち』
NHK「クローズアップ現代+」取材班 著
文藝春秋
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。