最新記事

BOOKS

日本の格差社会が「お客様」をクレーマーにし、店員に罵声を浴びさせる

2019年11月15日(金)12時05分
印南敦史(作家、書評家)

事実、アンケートを取ってみると、自分たちがストレスのはけ口になっていると感じている従業員は少なくないそうだ。


 特に接客業は弱い立場で、攻撃の対象になりやすい。私は、飲食業や福祉関係の仕事で不必要にエプロンをつけるのはよくないのではと感じることがあります。もちろん衛生上不可欠な場合もありますが、エプロンを付けると、どうしても「何でもしてくれる人」という印象を相手に与えてしまう。先日も福祉の仕事をしている人に、「エプロンをはずして、他の作業着に変えてみてはどうですか」と助言したところです。(93〜94ページより)

いずれにしても、いろいろな要因が複合的に絡み合って成り立っているのがこの社会。そのため、何が原因で悪質クレームが増えているのかということを、シンプルな言葉で語り尽くすことなどできないだろう。

だが、これら「過剰サービスによる過剰期待」「情報化社会がもたらす影響」「格差社会の進行」などが大きく影響していることは間違いなさそうである。

しかも恐ろしいのは、カスハラをする人のタイプと傾向、そして心理だ。著者も本書の前半部分で、その点を指摘している。


 取材して感じたのは、「普通の人」の恐ろしさだ。クレームを言う側は、自分たちは何も間違っていない、正しいことをしている、と信じている。その顔を見れば、どこにでもいるようなごく普通の人たちだ。
 結果的に他人の人生を大きく変えてしまった彼らは、自分たちがこうむった被害に比して、クレームの結果は釣り合う、と考えるだろうか?
 おそらく、「自分たちのしたことは正しい」という以外、何も考えないのではないか?
 私たちの誰もがクレーマーになる可能性を持っているのかもしれない、と感じた。(65ページより)

そう、最も重要なのは、私たちひとりひとりが「自分ごと」として考えてみることだ。「カスハラをする人と自分は違う人」だと思いがちだが、もしかしたら気づかないうちに、自分たちも誰かを傷つけている可能性もあるのだから。

もちろんそれは、誰だって認めたくないことだ。しかし、敢えてそうやって考えてみれば、何かヒントを見つけることができるかもしれない。


カスハラ――モンスター化する「お客様」たち
 NHK「クローズアップ現代+」取材班 著
 文藝春秋

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明

ビジネス

アングル:インドへの高級ブランド進出、実店舗スペー

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中