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日本の格差社会が「お客様」をクレーマーにし、店員に罵声を浴びさせる

2019年11月15日(金)12時05分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化しているが、モンスター化しているのは実は「普通の人」たち。カスハラが広がる要因には、格差など3つの背景があった>

「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が問題になっている。サービスを提供する企業や団体の職員が、(たとえ非がなかったとしても)客から一方的に罵声を浴びせられたり、理不尽な要求をされたりすることだ。

『カスハラ――モンスター化する「お客様」たち』(NHK「クローズアップ現代+」取材班・著、文藝春秋)は、この問題に切り込んだノンフィクション。ベースになっているのは、NHK「クローズアップ現代+」で2度放映された番組である。


 スタッフは現場を歩き、いくつもの生々しい被害の実態をすくいあげて来た。それをまとめ2018年11月に放送した(『暴言に土下座! 深刻化するカスタマーハラスメント』)。番組は大きな反響を呼び、ネット上でも話題となった。(中略)さらに範囲を広げ、加害者側にも迫るなど取材を深めていったのが2019年5月に放送した第2弾である(『カスタマーハラスメント! 客の暴言で心が壊される』)。本書は2つの番組をベースにしながら、それぞれ30分の番組では取り上げきれなかった取材の成果を盛り込んだ。(15ページより)

そんなこともあり、第1章はカスハラの実例紹介に割かれている。実際にカスハラ被害に遭ったスーパー店員、コンビニ店主、タクシードライバーなどが明かす6つの事例が並んでいるのだ。

罵声を浴びせられて精神を病んでしまったり、顔写真と実名をネットに上げられて人生が大きく変わってしまったというような人も多く、読んでいるだけで嫌な気分になってくる話ばかりである。

最近のクレームの傾向としては、言い方が暴言にあたるものであったり、威嚇、脅迫、恐喝をしたり、暴力行為の領域にエスカレートするケースが多いという。しかも見るからに悪そうな人ではなく、ごく一般の人が些細な苦情を申し立てているうちに、手がつけられないような状況になってしまうというのだ。

なお、関西大学社会学部の池内裕美教授は本書で、悪質クレームが増えていることには3つの社会的な背景があると指摘している。

背景その1:サービスの飽和状況

「おもてなし」という言葉にも表れているとおり、サービスに長けているのが日本人。しかし、「なんでもしてもらって当たり前」だと思われ、それがマイナスに働くことも。

池内教授はこう言う。


おしぼり一つ持ってくるにしても、本来は「おしぼりを持ってくる」という行為だけでサービスは成立しているのです。ところが、日本人はそこに笑顔で「いらっしゃいませ」と付け加えて、サービスプラスアルファの「おもてなし」をする。
 それもひっくるめてのサービスに慣れてしまっているので、無愛想におしぼりを持ってこられたら、「なんか足りない」「態度が悪い」となってしまうのですよね。このように、「おもてなし」をして当たり前の過剰サービスが、私たち日本人の標準になってしまっている。そこが大きな苦情を生み出す一つの要因になっていると思います。(85ページより)

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