最新記事

老後資金

雇用延長で老後の生活水準はどうなるか

2019年10月4日(金)19時05分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

nissei_191004_5.jpg

続いて、世帯の所得水準によって公的年金繰下げ支給の効果や就労延長の効果に差があるのかどうかを確認する(図表5)。年収500万円以上1,000万円未満の世帯においては図表4と同様に、公的年金繰下げ支給の効果はあまり確認できない。しかし、年収1,000万円以上の世帯においては、グループ2の割合が大きく増加する(15%→26%)。その分グループ3の割合が減少しており(28%→18%)、グループ4の割合も僅かに減少する(41%→39%)。これに対し年収500万円未満の世帯においては、グループ1及び2の割合が多少増加するが、グループ4の割合も増加する(54%→55%)。これは、退職後から年金受給開始までの5年間に資金が枯渇してしまう世帯の影響である。生活水準が高いためにより多くの老後の資金を必要とする高所得世帯で、かつ老後の資金として5年間の生活資金以上に準備できている世帯ならば、この資金で当初の5年間の生活資金を賄うことで、公的年金繰下げ支給による年金受給額の増額によるメリットを享受することが可能である。しかし、低所得でかつ老後の生活資金の準備が十分でない世帯にとって5年間も収入がないのは厳しいということである。以上のことから、公的年金繰下げ支給には生活水準の低下を抑制する効果より、比較的に余裕のある世帯がより高い生活水準を維持する効果があることがわかる。

一方、就労延長の効果は、公的年金繰下げ支給の効果と異なり、低所得世帯ほど効果が大きい。65歳で退職すると同時に公的年金の受給を開始する場合(1番左)のグループ4の割合は、年収500万円未満の世帯では54%、年収500万円以上1,000万円未満の世帯では42%、年収1,000万円以上の世帯で41%である。退職後も退職前と同程度の生活水準を維持することを前提としているため、グループ4の割合は年収1,000万円以上の世帯でも40%を超えるとはいえ、やはり所得の低い世帯ほどグループ4の割合が高い。しかし、(1-2)パート・アルバイト以外の非正規の従業員として就労するパターン(右から2番目)におけるグループ4の割合は、年収500万円未満の世帯では34%、年収500万円以上1,000万円未満の世帯では30%、年収1,000万円以上の世帯で33%であり、所得水準による差はほぼなくなる。更に、同パターンにおけるグループ1の割合は、年収500万円未満の世帯では41%で、年収1,000万円以上の世帯の25%を大きく上回る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中