最新記事

老後資金

雇用延長で老後の生活水準はどうなるか

2019年10月4日(金)19時05分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

就労パターン別の各グループの構成割合は図表4の通りである。1番左は65歳で退職すると同時に公的年金の受給を開始する場合を示しており、右側3つは70歳で退職すると同時に公的年金の受給を開始する場合を就労パターン別に示している。冒頭に示したとおり、70歳まで働く場合は、働き方によらず世帯の受給できる全ての公的年金を70歳まで繰下げることとした。各グループの構成割合の変化が就労延長の効果によるものか繰上げ支給の効果を明らかにするため、左から2番目に65歳で退職するが、公的年金の受給は70歳に開始する(その間5年は、準備した老後の資金で生活資金を全額賄う)場合を示している。

nissei_191004_4.jpg

まず、図表4の左側2つを比較することで、公的年金の繰下げ支給にはさほど効果がないことが分かる。これは、公的年金の繰下げ支給により年金額は増額されるが、受給できる期間が短くなることで、全体の平均としては帳尻が合うよう上手く設計されているからである。全体として帳尻が合うように上手く設計されていても、長生きするほど資金が枯渇する可能性は高いのだから、長生きするほど有利な繰下げ支給の効果はもっと大きいようにも思える。繰下げ支給の効果が小さいのは、資金が枯渇するのは夫婦共に長生きした場合ではなく、夫があまり長生きせず、妻のみが長生きした場合が多いことに起因すると考えられる。夫に比べ妻が長生きした場合に資金が枯渇する可能性が高まるのは、夫は老齢基礎年金(満額)に加え年間収入に応じた老齢厚生年金を受給する一方、妻は老齢基礎年金(満額)のみを受給する夫婦を想定しているからである。公的年金の繰下げ支給により、夫の老齢厚生年金および夫と妻の老齢基礎年金は42%増額されるが、夫の死亡後に妻が受け取る遺族厚生年金は全く増額されないからだ。なお、公的年金の繰下げ支給による影響を細かく確認すると、グループ2の割合が多少増加し、その分グループ3の割合が減少している一方、グループ4の割合は減少していないことがわかる。つまり、公的年金繰下げ支給の効果は僅かだが、グループ3のような老後の資金の準備がある程度順調な世帯にとって、生活水準の低下を抑制する効果が期待できるということである。

次に、図表4の左側2つと右側3つを比較すると、公的年金繰り下げ支給による効果に比べて、就労延長の効果がはるかに大きいことが分かる。当然ながらより高い収入が得られる就労パターンほどグループ1の割合が増加し、グループ4の割合が減少する。65歳から69歳の一般の雇用者(男性)における収入上の中間層である(1-2)パート・アルバイト以外の非正規の従業員として就労するパターンにおけるグループ4の割合は32%で、65歳で退職すると同時に公的年金の受給を開始する場合の46%と比べ14%も減少する。なお、(1-1)パートやアルバイトの従業員として就労するパターンでも、グループ4の割合は36%にまで減少する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中