最新記事

米外交

ボルトン解任はトランプにしては賢明だった

Trump makes a smart decision, for once

2019年9月11日(水)18時51分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

トランプは10日朝のツイートで、「昨夜ジョン・ボルトンに、もうホワイトハウスには必要ないと伝えた」と発表した。その12分後、ボルトンは解任を否定するツイートをした。「昨夜、私は辞任を申し出た。トランプ大統領は『そのことは明日話をしよう』と言った」

ボルトンは辞任したのか? それとも解任されたのか?

テレビのリアリティ番組「アプレンティス」で作り上げたイメージとは裏腹に、トランプは人を解雇するときに生じる軋轢を嫌っている。だが実際に人が辞めるという場面になると、トランプは先に手を出そうとするので、彼が主導権を握っているようにみえるのだ。

好例がある。昨年12月20日、当時国防長官だったジェームズ・マティスは抗議の辞任を表明する書簡をトランプに送った。そのなかで、次のNATO会議後の2月末で辞任する意思をトランプに伝えた。トランプはすぐに返事を書き、10日のうちに荷物を片付けるよう命じた。

安全保障問題担当は4人目

今回の解任劇がどうなるにせよ、ボルトンは今後、トランプにとってありがたくない暴露本を書きかねない存在だ。トランプの取り巻きグループにはいたものの、ボルトンは不満たっぷりで、側近としての忠誠心もない。

トランプはツイートで、来週にはボルトンの後任を指名すると発表(このポストの任命は上院の承認を必要としない)。トランプ政権の国家安全保障問題担当補佐官はこれで(代行も含め)4人目になる。

1人目のマイケル・フリン中将は、ロシア疑惑についてマイク・ペンス副大統領にうそをつき、FBIの捜査に対しても嘘の供述をしたため、就任から数日で解任された(そして今は実刑判決が下るかもしれない)。2人目のハーバート・マクマスター中将が解任された主な理由は、トランプにうっとうしいと嫌われたからだ。

ボルトンは最低の国家安全保障担当補佐官だった。いかなる尺度をもってしても、おそらく史上最悪だろう。彼のように自分のイデオロギーしか頭にない安全保障担当は2人といまい。トランプがボルトンと意見が合わなかったのも責められない。ボルトンは、国家安全保障会議(NSC)をないがしろにして骨抜きにした。NSCは、米政府内にあって省庁の垣根を超えて外交課題について議論し、大統領に助言を行うべき組織。しかしボルトンは誰の意見も聞かずに自分だけの考えを大統領に具申した。NSCはほとんど開かれず、一部の幹部だけが自分の意見を通した。

専門家のアドバイスや政権内のコンセンサスを嫌うトランプは当初、ボルトンらの独断専行を許したばかりか奨励しさえした。ボルトンも、トランプの右腕でいられるうちは満足だった。だが、それも長くは続かなかった。そしてモンゴルに送られた。ボルトンは、古巣のネオコン・シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)に戻るのかもしれないが、二度と出てくることはできないだろう。

(翻訳:栗原紀子)

20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中