最新記事

ジェンダー

女性が経済的に不利なのは、お金の話を語ることがタブーだから

The Last Taboo

2019年9月4日(水)19時20分
サリー・クロウチェック(女性向け資産運用会社エルベストCEO)

女性が投資を始めようとすると、圧倒的に男性優位の投資業界の人たちから、こう警告される。女性は男性よりもリスクを取らず、男性ほど投資に向いていないから、まずは勉強してと(複数の調査で、女性のほうが男性より有能な投資家だという結果が出ているのに)。

語られない女性の現実

実際、ウォール街はもっぱら男性のほうを向いている。ファイナンシャル・アドバイザーの84%、投信マネジャーの90%が男性というだけではない。あの街のシンボルからして「怒りで鼻を鳴らす雄牛」の銅像だ。

女性はお金の扱いが得意ではなく、投資よりも貯蓄に向いている。お金を稼ぐのは男の仕事だ。女性は日々の生活の中で絶え間なく、こうしたメッセージを受け取っている。多くの女性がそんなメッセージを信じ、お金に疎いほうが女らしくて男に好かれると思い込んでいる。

そうして女性は投資の判断を男性に任せてしまう。スイスの銀行最大手UBSの調査によれば、家庭の投資判断を主導するのは男性が83%。女性は2%にすぎない。

こうしたメッセージは、結果的に女性自身の責任論に帰着させる。女性の経済的な地位が相対的に低いのも貧困率が高いのも自業自得で、社会的な要因のせいではない。そう思わされる。

もっとお金に強くなれ。もっと上手に投資計画を立てろ。巧みに立ち回って昇給を勝ち取れ。毎日1杯のカフェラテ習慣をきっぱりと断ち切れ。そして「自己肯定感」の弱さを克服せよ。そんなふうに説教される。

こうした自己啓発の勧めを装う偽りの自己責任論のせいで、金銭面で女性を抑圧する社会的制度は堂々と免罪符を得ている。

この文脈では、女性の置かれた現実はほとんど語られない。アメリカが先進国では唯一、有給の育児休暇を制度化していない国であることも、昨年のある調査で女性の81%が少なくとも一度はセクハラを受けたことがあると回答していたことも、学生ローンの返済に困っている女性が男性より圧倒的に多い事実も語られない。

退職時の女性の資産は男性の3分の2(都市問題研究所の推計では、有色人種の女性の場合はもっと少ない)という事実も、この文脈では女性の自己責任(個人的な能力不足と努力の不足)とされてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中