最新記事

EU

ヨーロッパはイノベーション空白地帯

An Innovation Agenda for Europe

2019年9月28日(土)11時30分
マヌエル・ムニス(スペインIE大学教授)、マリエッチェ・スハーケ(元欧州議会議員)

ヨーロッパはテクノロジーで米中に引き離されたまま ILLUSTRATION BY MONSITJ/ISTOCKPHOTO

<EU域内に主だったネット企業も見当たらないままでは安全保障と経済成長、雇用にも悪影響が及びかねない>

この秋、EUの新しい指導部が始動する。ヨーロッパの国際的地位を高めるために、新たに就任するリーダーたちが最優先で取り組むべき課題、それはイノベーションの促進だ。

デジタル経済の急速な発展に伴い、テクノロジーの世界は、アメリカと中国が君臨する2極体制になりつつある。ヨーロッパは、この2大国に大きく後れを取っているのが現状だ。

世界の主要インターネット企業の中にヨーロッパ企業の名前はなく、EU圏内にはテクノロジー系のユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)もほとんどない。シリコンバレーや中国の深圳に匹敵するテクノロジー産業の集積地もヨーロッパには見当たらない。

このままだと、ヨーロッパはこれからの時代の地政学的な課題に対処できなくなる。工業とテクノロジーの進歩から取り残されれば、強靭で優れたデータインフラを維持できなくなり、その結果として安全保障上の独立性が揺らぎかねない。

イノベーションの促進は、経済政策の面でも極めて重要だ。テクノロジーを大々的に活用している企業は、生産性と競争力も高いことが知られている。最近10年間の先進諸国における生産性向上はほぼ全て、ひときわ生産性の高いひと握りのテクノロジー企業によるものだという。

昨今、好待遇な職の大半を生み出しているのもこの種の企業だ。競争力の弱いローテクの企業が産業界の中心を占め続ければ、市民にとって雇用の未来は明るくない。優秀な人材はほかの国々に出て行ってしまう可能性もある。しかも、民間部門の生産性が低いと、国家の税収も少なくなる。

つまり、デジタル経済の優等生になるか落ちこぼれになるかは、ヨーロッパの未来にとって非常に大きな意味を持つ。

取り組むべき3つの課題

そこで、EUは直ちにイノベーションの推進とテクノロジー産業の振興に向けて野心的な対策に乗り出す必要がある。そのために、ヨーロッパ諸国がより緊密に協力し合い、長期にわたり努力を続けねばならない。

私たちが思うに、EUがとりわけ力を入れて取り組むべき重要課題は3つある。第1は、世界の優秀な人材を引き寄せられる大学や研究機関の集積地を築くことだ。世界の主要なイノベーションの中心地はことごとく、レベルの高い高等教育機関に支えられている。

そうした大学に期待されるのは、世界水準の教育を提供することだけではない。国や地域の経済成長と雇用創出に貢献できる新興企業や事業の源泉を生み出すことも期待される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中