最新記事

インタビュー

元CIA局員たちへの取材で炙り出された、日米の諜報活動の実態

2019年9月18日(水)18時20分
小暮聡子(本誌記者)

――彼女は日本で生まれ育ってからアメリカに渡り、CIAで働くことを決めた。そこに、「母国」を裏切っている、というような気持ちはなかったのだろうか。

おそらく一つ大きいのは、CIAで働くことに決めたときには日本にもう家族がいなかったということ。あと自分の取材から見えてきたのは、「日本」を過去のものとして、アメリカに渡った、というイメージだ。

実際に、母親が亡くなったという報告が来ても日本に戻らなかったし、家業を継いでくれと言われても戻らなかった。そのままアメリカで生活していくなかでだんだん自分もアメリカ人になっていくのだが、それでも自分の居場所はぐらついたままだった。

アメリカに住んだことがある人なら誰しも分かると思うが、外国人がアメリカに住むと、自分がメインストリームには入れないという疎外感がある。だから同じ人種の人たちでコミュニティーを作り、かたまりやすくなる。長く住んでいる人でもそうだ。キヨも、いつまでたっても自分の居場所がないと感じていたのではないか。

本来なら夫が自分にとって一番身近な存在であるはずだが、キヨはアメリカ人の夫が黒人を差別する姿などを目の当たりにしてきた。アメリカ人も、もともとはみな移民なので、自分たちの立場を守ろうとするあまり排他的になってしまうところがあったりするのかもしれない。そんななか、CIAのような国家の中枢機関で国策に貢献できる仕事をすることで、キヨはアメリカに自分の居場所を見つけていく。

本にも書いたが、キヨは晩年、自分の身の回りの世話をしてくれていたアイルランド人のアンジェラという女性にこう語っている。「私がCIAに入ってよかったことは、やっとアメリカに受け入れられたと感じることができたことなの」、と。

おそらくキヨは、CIAで働くことでやっと居場所を見つけた。だから自分がしてきたことに誇りに思っていたし、晩年になって、自分がCIAで働いていたことを周囲に打ち明け始めたのだろう。

――取材を始めるに当たって、キヨ・ヤマダという人物に興味があったのか、CIAに興味があったのか。

そもそも諜報機関に対する興味が長年あって、ずっと取材をしてきている。イギリスやイスラエルなど、現役の諜報員は難しいが、以前働いていた人などは機会があれば取材をしてきた。今は中国の諜報力がすごいという人もいるが、CIAは予算も人員も影響力も歴史も含めて大きな組織だ。特にCIAに関心を持っていたなかで、日本人でCIAに関わっていた人がいると知人から聞き、それは面白いと思った。

CIA局員は仕事柄、自分の身分も任務も周囲に明かすことはないが、キヨが日本語インストラクターをしていた当時の教え子、つまり対日工作にかかわった元スパイに話を聞けるかもしれないとなり、これはぜひ本にしたい、と思った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中