最新記事

再生可能エネルギー

発電量は原発600基分、課題はバードストライク──風力発電の順風と逆風

2019年9月10日(火)17時45分
南 龍太(ジャーナリスト)

grandriver/iStockphoto

<世界で導入が進む風力発電のトレンドは洋上へ。発電量は右肩上がりだが、バードストライクなど対応すべき課題も多い>

世界で再生可能エネルギーの導入が進み、日本でも官民を挙げた取り組みが加速している。中でも太陽光と共に「急速なコストダウンが見込まれる電源」と国が推進する風力発電は、世界に累積で約6億キロワット、原発600基分が設置済みだ(1基100万キロワットで換算)。

欧米や中国に比べ、後れを取っている日本は、2030年に1000万キロワットまで増設していく計画を掲げ、促進策を打ち出す動きが目立つ。一方、動物や環境への配慮も一層求められるようになっており、「地元」と調和した開発の難しさも露呈。計画通り開発が進むか不透明感も漂う。

相次ぐ絶滅危惧種の衝突

8月、衝撃的な映像がニュースで流れた。北海道苫前町の小型風力発電に絶滅危惧種のオジロワシが衝突し、翼の骨が砕けたとの内容だ。徳島大の研究グループによる映像で、ワシは道内の施設で保護されたという。

こうした鳥が風力発電にぶつかる「バードストライク」は、風力発電の導入が本格化した2000年代以降に増え、オジロワシやクマタカなど絶滅危惧種の死亡例が少なくとも数十報告されている。たびたびニュースになるものの、実効性のある対策は見つかっていないのが実情だ。事業者が設備の色を塗り直して目立たせたり、レーダー監視を強化したりといった対応をしているが、効果のほどは定かではない。

環境省が3年をかけて防止策を検証し、2016年にオジロワシ、オオワシなど希少な「海ワシ類の風力発電施設バードストライク防止策の検討・実施の手引き(案)」をまとめた。しかし、その後も鳥の衝突事故が後を絶たない。むしろ、確認されていないだけで、衝突事故の実数はさらに多いと見込まれる。

国内に限った問題ではない。風力の導入量で世界2位、18年末に約9700万キロワットの米国では、年間14万~32万8000千羽が犠牲になっているとのデータもあった(出所: Estimates of bird collision mortality at wind facilities in the contiguous United States)。
世界的に自然環境や動物の保護が叫ばれる中、関係各国の連携や実効性のある対策が急務となっている。

トレンドは陸上から洋上へ

米国を抜いて世界首位の導入量を誇るのが中国だ。2018年末時点で約2億1139万キロワットと世界全体の3分の1強を占め、2位の米国以下を大きく引き離す。現在40万キロワットと中国国内で最大級の洋上風力プロジェクトが進行中で、再エネ大国の道を突き進んでいる。発電量もさることながら、風力のタービン製造でも中国企業が上位10社の半数を占めるなど、存在感を放つ。

世界全体では18年に前年比9.5%、5130万キロワット増えて5億9155万キロワットとなった。1基当たりの効率化、巨大化が進み、世界の導入量は年率13%と依然高成長を続けている。(世界風力会議(GWEC)

欧州など導入が進む地域では既に陸上に設置できる余地が少なくなってきており、開発の舞台は海に移りつつある。洋上風力は2010年以降に増え始め、現在風力発電全体の4%ほどに当たる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、日本の成長率見通し引き下げ トランプ関税の

ビジネス

IMF、新興国の成長率見通し引き下げ 資金調達問題

ビジネス

英成長率、今年1.1%に下方修正 インフレは上振れ

ビジネス

IMF、中南米・カリブ海諸国の2025年成長率見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 10
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中