最新記事

宇宙開発

中国とインドが月面探査の先に見る野望

To the Moon and Beyond

2019年9月21日(土)12時43分
ナムラタ・ゴスワミ(インド防衛研究分析センター元研究員)

アポロ時代の「国旗を立てて足跡を刻む」ミッションと違って、現代の優先課題は、月面の資源探査と長期的な移住計画だ。

中国・中央軍事委員会の軍備開発部副主任を務め、後に人民解放軍戦略支援部隊の要職に就いた張育林(チャン・ユィリン)は2016年にこう話している。

「地球と月の間の空間は、中国の力強い国家再生にとって戦略的に重要になる......中国が有人宇宙計画で目指すのは、いともたやすい月面着陸ではなく、難しい課題が残る火星へのミッションでもない。地球と月軌道の間の空間を、より先進的な技術で継続的に探査することだ」

0924p34.jpg

3番目の快挙 中国は2013年に玉兎号で月面軟着陸に成功した(写真は実物大模型) ALEX LEEーREUTERS

空間技術研究院(CAST)で嫦娥4号の設計責任者を務めている孫沢洲(スン・ツォーチョウ)は次のように語っている。

「月面に科学研究基地を建設するためには、同じエリアに複数の探査機を着陸させて、複合施設を組み立てなければならない。そのためにはかなりの精度で着陸させる必要がある......嫦娥4号のミッションの課題を解決することによって、今後の月面探査と、ほかの惑星の着陸の基礎を築けるだろう」

中国にとって月面着陸は、さらに大きな目的を達成するための手段である。月面で工業能力を育て、小惑星の鉱物資源開発と、より遠い宇宙空間の探査と開発を実現しようというのだ。

例えば、ロケットの推進に用いる水など月の資源を使って宇宙船を建造・維持する技術によって、発射エネルギーを、地球から打ち上げる場合の22分の1に削減できる。

中国国家航天局(CNSA)は今年1月、嫦娥4号が月面軟着陸に成功した直後に、さらに数回の月面探査ミッションの計画があると発表。2036年までに、月面に恒久的な研究基地を建設すると述べた。

「中国の月面探査機の父」葉培建(イエ・ペイチエン)は2018年に、中国が先進的な月面探査技術の強みを生かして、月面の資源が豊富な土地の権利を主張しなければ、自分たちは今後何十年も後の世代から責められるだろうと指摘している。

人民解放軍の専門部隊

中国は、明確な宇宙戦略と壮大な野望を掲げているだけではない。月面基地の維持に必要な宇宙太陽光発電技術を積極的に開発するなど、月面で恒久的な研究基地を維持する能力があることも証明している。

習近平(シー・チンピン)国家主席は2015年12月、人民解放軍戦略支援部隊を設立した。人民解放軍の陸軍、海軍、空軍、ロケット軍と同列の独立部門で、宇宙戦争やサイバー戦争、電子戦争などを管轄するとみられ、習が宇宙で描く野望を推進することになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中