最新記事

アメリカ社会

米中摩擦のアメリカ農家に光明? 大麻の原料ヘンプは救世主か

2019年6月25日(火)10時00分

6月14日、穀物価格の低迷や、中国との貿易戦争長期化に困り果て、最近まで非合法だった作物に救いを求める米農家が増えている。ヘンプ(麻)栽培だ。写真はヘンプの種子。カンザス州ヘイズビルの研究施設で5月撮影(2019年 ロイター/Julie Ingwersen)

穀物価格の低迷や、中国との貿易戦争長期化に困り果て、最近まで非合法だった作物に救いを求める米農家が増えている。ヘンプ(麻)栽培だ。

大麻(マリファナ)の原料となる植物の一種であるヘンプは、食品や建築資材、そして不眠症からニキビ、心臓病に至る幅広い症状に効果があるとされるカンナビジオール(CBD)など、多くの製品に利用されている。

ヘンプへの関心が高まったのは、2018年の米農業法改正によってヘンプが米麻薬取締局の管理対象から外され、米農務省(USDA)の管轄となってからだ。マリファナと異なり、産業用ヘンプには、使用者を「ハイ」にさせる量の精神活性化合物テトラヒドロカンナビノール(THC)は含まれていない。

新ルールでは、USDAヘンプの栽培許可を農家に出すことになっているが、同省はまだ対応を取っておらず、引き続き各州が許可を出している。

産業用ヘンプの作付け面積は、2018年の約3万1600ヘクタールから倍増しそうだと、ヘンプ利用を推進する団体「ボート・ヘンプ」のエリック・スティーンストラ氏は言う。2017年には、2014年の改正農業法で認められた試験プログラムで、約1万ヘクタールが作付けされた。

米国のヘンプ市場は、供給とともに拡大している。

ボート・ヘンプと業界誌「ヘンプ・ビジネス・ジャーナル」によると、米国では2018年にヘンプの売り上げが11億ドル(約1190億円)に成長し、2022年までに19億ドルに拡大すると予測されている。

利益のポテンシャルは高い。例えば、食品グレードのヘンプは1エーカー(約4000平方メートル)当たり750ドルの手取り収入を農家にもたらすと、ウィスコンシン州プレスコットのヘンプ処理業者「レガシー・ヘンプ」のケン・アンダーソン氏は言う。

ヘンプの種は、パンに入れて焼いたり、シリアルやサラダに振りかけて食べる。

「それは、トウモロコシや小麦など目じゃない利益になる」と、アンダーソン氏は言う。

対照的に、大豆の収益は1エーカー当たり150ドルかそれ以下だ。米国産大豆の中国輸出は、昨年貿易戦争が本格化して以降、急減している。

だがキャッシュを手にするためには、米農家はまず馴染みのないこの作物の栽培方法を学び、変化する規制や他の不確定要素と格闘しなくてはならない。

「誰もまったく経験がない」。カンザス州オーガスタのビジネスマンで、家族が所有する牧草地で今回初めてヘンプを栽培しようと考えているリック・ガッシュさん(46)は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍機の安全な飛行阻害したとの指摘は当たらない=

ワールド

中ロの新ガスパイプライン計画、「膨大な作業」必要と

ワールド

ゴールドラッシュかリスクか、AIに世界の大口投資家

ワールド

ウクライナが水上ドローン攻撃、「影の船団」タンカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中