最新記事

感染症

モンゴルでマーモットの生肉を食べた夫婦がペストに感染して死亡

2019年5月10日(金)17時00分
松岡由希子

Manfred Bohn -iStock

<モンゴルで、マーモットの生肉を食べた夫婦がペストに感染し、相次いで死亡した。モンゴルでは1980年以降、ペストのヒトへの感染が毎年20件未満で発生していた......>

ロシアとの国境に位置するモンゴル北部の村ツァガーンノールで、齧歯類(げっしるい)のマーモットの生肉を食べた国境警備官の38歳の男性とその妻がペストに感染し、相次いで死亡した。米紙ワシントン・ポストや露ノヴォシビルスクの地域ニュースサイト「シベリアン・タイムズ」などが報じている。

観光客など28人を国境で隔離、地域住民1300人の出入り制限

モンゴルはマーモットの食肉を禁止しているが、モンゴル一部では「齧歯動物の内蔵を生食すると健康によい」という民間療法が信じられている。男性とその妻はマーモットの腎臓、胆のうなどを生のままで食べ、敗血症性ペストによる多臓器不全で死亡した。

敗血症性ペストは、発熱、悪寒、極度の脱力感、腹痛などをもたらすほか、皮膚や臓器で出血を伴うこともあり、治療しなければ30%から100%の確率で死に至る。男性は発熱後1週間足らずで2019年4月27日に死亡し、妻は吐血と重度の頭痛により集中治療室に入院したものの5月1日に死亡した。死後、この夫婦が敗血症性ペストにかかっていたことが明らかとなったことから、地域住民や医療従事者ら、密接な接触があったと思われる118名を隔離し、予防用抗生物質を投与した。

また、スイス、スウェーデン、カザフスタン、韓国からの観光客を含めた28人を国境で隔離し、他の地域住民およそ1300人についてもツァガーンノールの出入りを制限した。その後、新たなペストの感染例は報告されておらず、5月6日に検疫は解除されている。

モンゴルでは、ペストのヒトへの感染が毎年20件未満で発生していた

ペストは本来、齧歯類の感染症で、ノミを介してネズミなどの動物間で伝染し、感染したノミに噛まれたり、感染者の痰などに含まれる菌を吸い込むことでヒトにも感染する。世界保健機関(WHO)によると2010年から2015年までに世界で3248の感染例が報告されており、584名が死亡している。

また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の学術雑誌「エマージング・インフェクシャスディジーズ」で2011年7月に発表された報告書によると、モンゴルでは1980年以降、ペストのヒトへの感染が毎年20件未満で発生しており、その感染源の多くがマーモットとの接触もしくはマーモットの摂取であるとされている。

米ハワイ大学マノア校のウィリアム・ゴスネル准教授は、ワシントン・ポストの取材に対して「人間が齧歯類の生肉を食べてペストにかかったという例は聞いたことがない」としながらも「生のままで何かを食べれば、あらゆる病原体を拾ってしまう可能性は常にある」と警告している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中