最新記事

中国

中国で「黄帝祭典」盛大に行うもネット民は無反応――「令和」との違い

2019年4月9日(火)13時41分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

黄帝を中華民族の始祖として敬うというのは、「中国共産党が全てであり、最高峰の存在であるはずの現在の中国」においては、何とも違和感を与える。しかし愛国主義教育というのは、1989年6月4日の天安門事件が西側諸国に憧れた若者たちによる民主化運動であるとして、「中国にも中国独自の伝統的な文化遺産がある」から「自分自身の祖国である中国を愛しなさい」という教育でもあるので、この矛盾から離れることができない。毛沢東による文化大革命で中国の伝統的な文化を破壊しつくしておきながら、今度は一転、中国の伝統的文化を讃え、習近平政権になってからは、それを「中華民族の偉大なる復興」と結び付けようというのだから、違和感がない方がおかしい。

ところで、動画のタイトルには「己亥年」という文字があることにお気づきだろうか。2019年の干支(えと)は「己亥(つちのと・い)」だ。中国では今や、日本の元号に当たる年号はなくなったものの、干支はそのまま用いている。この辺に中国のネット民が多少の反応を示すかというと、これくらいのことには「萌えない」。

こちらの動画(河南ラジオ・テレビ局と鄭州テレビ局が撮影したものをThe Paperが編集した動画)でも観ることができるが、これは長すぎて中国語の解説が長いので、面倒かもしれない。しかし中国語解説の部分を飛ばしていただくと、1時間半にわたる全過程を詳細に観ることができる。

スピーチでは「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」や「中華民族の偉大なる復興」などを讃え、まるで全人代の挨拶のようだ。最後まで観るには忍耐力を要するが、それでも中国の一側面を知る上では、面白いかもしれない。何しろ荘厳な音楽が流れる中、中国政府の高官らが首に黄帝の象徴である黄色のタイを掛けながら、5000年前の帝王に恭しく頭を下げるのだから。

中国のネットには、さまざまな種類の華々しい動画や静止画面の写真付き解説などが掲載されているが、こんなにまで中華民族の始祖を讃える行事であるにもかかわらず、ネット民のコメントをただの一つも見つけることができなかった。唯一、「人民網」(人民日報電子版)の「強国論壇」にコメントが一本だけあったが、それは当局が五毛党に書かせたものであることが明らかな内容だ。

なぜ「黄帝」に関心を示さないのか

なぜなのか、北京にいる中国の若者を念のため取材してみた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中