最新記事

資産形成

【資産形成】40~50代が運命の分かれ道?

2019年3月28日(木)17時46分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

実質的な純貯蓄額の差は年齢と共に広がる傾向があるが、図表1を見る限り、分岐点は40~50代のようだ。実際、その年代で純貯蓄現在高最上位(青円:以下、トップ集団)と第2位(水色円)との平均純貯蓄額の差が最も拡大し、その後縮小することはない。

トップ集団とその他との差が40~50代で広がる要因の一つとして、相続が考えられる。相続税の支払いが必要なほど多額の財産を受け取るのは全体の1割程度2と考えられ、全体の2割を占めるトップ集団のみが純貯蓄額を大きく積み上げる現実と整合的である。更に、この現実は、平均的なライフサイクルとも整合的である。国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集(2018年版)(以下、同人口統計)によると、2016年における男性死亡者(以下被相続人)のおよそ4割が80歳~89歳である。仮に、相続人の年齢が55歳ならば、1961年に被相続人は25歳~34歳で相続人である子供を授かったことになる。当時の年齢別人口及び男性の年齢別嫡出出生率から類推すると、1961年に生まれた子供の父親の約8割が25歳~34歳である。つまり、この人々が55年後の2016年には、80歳~89歳となり、被相続人となっていると考えられるからだ。

トップ集団とその他との差が40~50代で広がる理由が相続ならば、資産形成における分岐点は生まれた時点で既に生じていたことになる。相続の他に早期退職による退職一時金受領の影響も考えられるが、この可能性は低い。大部分が退職一時金を受け取っているであろう60歳~69歳になっても、トップ集団とその他との差が縮小していないからだ。いずれにせよ、潤沢な老後の生活資金を確保できるかどうかは、相続など特別な幸運の影響が大きいようだ。しかし、老後の生活資金を確保することが目的であれば、トップ集団に入る必要はない。資産形成状況が第2位程度でも老後の生活資金としては十分だ3

takaoka20190317223202.jpg

そこで、中位層(第2位~第4位)に着目し、資産形成状況の差が拡大する時期を確認する。若年層は住宅の有無による影響が大きいので、実質的な純貯蓄額を基準に世帯を五分割し各階級別の実質的な純貯蓄額を概算した。その結果、世帯間の資産形成状況の差が拡大するのは、40代以下の比較的若年期であることが分かる(図表2)。やはり、相続という特別な幸運に遭遇できない多くの世帯が老後の生活資金を確保できるか否かは、若いときからの地道な努力によるところが大きいと考えられる

takaoka20190317223203.jpg

――――――――
2厚生労働省平成28年人口動態統計の年間推計によると、死亡者数は1,296,000人である。これに対し相続税の課税対象となる被相続人数は105,880人(国税庁統計年報(平成28年度))で、年間死亡者数の約8%に相当する。
3基礎研レポート「住宅資金を老後資金~転居せずに老後資金の不足を補う新たな方法を考える」参照

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中