最新記事

人体

女性の体は、弱い精子をブロックする驚くほど洗練された方法を持っていた

2019年2月20日(水)17時30分
松岡由希子

運動性の高い精子を選抜する選択メカニズムがあった rez-art - iStock

<米コーネル大学の研究によって、子宮から卵管へとつながる狭窄が、運動性の高い精子を選抜する役割を担っていることが明らかとなった>

ヒトをはじめとする哺乳動物は、わずか1個の卵子に対し、一回の射精で6000万から1億の精子を放出するが、精子が卵子と出会うためには雌性生殖器を通過せねばならないため、精子の運動性は受精可能性を決定づける重要な特性であると考えられてきた。

そしてこのほど、子宮から卵管へとつながる狭窄が、運動性の高い精子を選抜する役割を担っていることが明らかとなった。

狭窄が運動性が低い精子の進入を妨げる「門」のような役割

米コーネル大学アリレザ・アブバスポアラッド博士らの研究チームは、マイクロ流体デバイスを使って、雌性生殖器内の狭い結合部での流体力学的性質をシミュレーションしたところ、運動性が一定レベルを下回る精子の進入を狭窄が妨げ、いわば"門のような役割"を担っていることがわかった。

一連の研究成果は、2019年2月13日、オープンアクセスジャーナル「サイエンス・アドバンシーズ」で公開されている。

運動性の高い精子を選抜する選択メカニズム

研究チームでは、シミュレーションに先立ち、この狭窄を模倣した最狭幅0.04ミリ、最広幅0.3ミリのマイクロ流体デバイスを開発するとともに、「精子の位置は、推進速度、媒体の流速場、側壁との流体力学的相互作用に起因する速度成分に影響を受ける」との仮説のもと、精子の位置を予測する数式モデルを作成した。

狭窄が担う"門のような役割"を観察するべく、このマイクロ流体デバイスを使ったヒトの精子とウシの精子のシミュレーションでは、狭窄内のせん断速度が7.98sまで低下するように媒体の流入速度を下げたところ、秒速0.0842ミリの最も運動性の高い精子はこの流れに耐えたが、速度の低い精子は狭窄を通り抜けることができなかった。精子がくねくねと動きながら狭窄を通り抜けよう繰り返し試み、対向流に押し戻されていく様子が、動画でもとらえられている。

研究チームは、このようなシミュレーション結果をふまえ、「狭窄の"門のような働き"は、運動性の高い精子を選抜するために生殖管が用いている、運動性をベースとした選択メカニズムである」と結論づけている。

この研究成果は、生殖医療のさらなる進化に寄与する可能性を秘めている。

精子の数よりも運動性がより重要

米ワシントン大学のジョン・エーモリ教授は、米ニュースサイト「ザ・ヴァージ」の取材に対して、「臨床的には、精子の運動性の高さが受精の要因ではないかと疑われてきたが、この研究成果はこの見方が正しいことを示している」と評価している。

同様に、ワイルコーネル医科大学のハリー・フィッシュ博士も、米誌「USニューズ」において、「精液検査では、まず精子の数に注目し、さらにその形状や運動性をみてきたが、この研究成果は、従来考えられていたよりも、精子の運動性がより重要だということを示している」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機「ラファール」100機取得へ 

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 120億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中