最新記事

雇用

失業率とシンクロする自殺率の推移

2019年1月9日(水)16時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

AIの台頭により人間の雇用が脅かされる事態も考えられる YingYang/iStock.

<戦後日本の失業率と自殺率の推移を見てみると、両方の数値には強い相関関係がある。失業率が1%上昇することで国民が受ける「痛み」は決して小さくない>

フランスの社会学者、オーギュスト・コントは「予見せんがために見る(voir pour prevoir)」と言った。過去のトレンドから未来を予測するのは、データ分析の重要な仕事だ。

歴史を振り返ると、社会の経済動向と自殺は強く相関している。不況期では自殺率は上がり、好況期はその反対だ。完全失業率と自殺率の時系列カーブを描くと、両者は恐ろしいほど同調している。失業率が上がれば自殺率も上がる。こうした共変関係がクリアーだ。

あらゆる財やサービスが貨幣を通じて交換される社会では、失業によって収入源は断たれることは大きな痛手となる。生活苦に陥り、最悪の場合、自らを殺めることにもつながりかねない。影響は当人にとどまらない。稼ぎ手が失業状態にあることは、当人に扶養されている家族の生活も脅かす。

失業率とは、働く意欲のある労働力人口のうち、職につけていない者(完全失業者)の割合をいう。総務省の『労働力調査』に計算済みの数値が出ている。自殺率は人口10万人あたりの自殺者数で、厚労省の『人口動態統計』から長期推移を知ることができる。<図1>は、両者の長期推移のグラフだ。データが得られる1953~2017年のカーブが描かれている。

maita190109-chart01.jpg

一見して分かるとおり、失業率と自殺率のカーブは形状がよく似ている。高度経済成長期に下がり、低成長期に上がり、バブル期に下がり、90年代以降の不況期に上がり、最近の好況期では下がっている。相関係数(+1に近ければ近いほど強い相関がある)は+0.7024にもなる。

この65年間の経験的事実(データ)をもとに、失業率(X)と自殺率(Y)の関連を定式化してみる。多項式にすれば精度はやや上がるが、話を分かりやすくするために単純な一次式を用いる。

■Y=1.949X+14.345

この式の係数から、失業率(X)が1%上がると、自殺率(Y)は1.949上がると推計できる。人口を1億2000万人と仮定すると、実数でみて年間の自殺者が2339人増える計算になる。2017年の労働力人口は約6720万人なので、このうちの1%、つまり67万人の雇用がなくなると2339人の自殺者が出る恐れがあるということになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EUのガソリン車販売禁止撤回、業界の反応分かれる

ワールド

米、EUサービス企業への対抗措置警告 X制裁金受け

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中