最新記事

ヘルス

脳の快感を呼ぶASMR(自律感覚絶頂反応)って何?

THIS IS YOUR BRAIN ON NOTHING

2019年1月16日(水)16時40分
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)

なぜASMRで気持ちが落ち着くのか。リチャードは生理的に引き起こされる反応だと確信している。例えば人気のささやき動画「ジェントル・ウィスパリング」の声を聞くと、赤ん坊をなだめようとするときの母親の声によく似ている。「私たちは生まれたときから、ああいう声で落ち着くようにできている」と、彼は考える。

サルの毛づくろいと同じ?

「優しく話し掛けられ、そっと触れられ、思いやりのあるまなざしで見られると、私たちの脳はこの人なら自分を守ってくれると認識し、これで安心だと感じる」と、リチャードは言う。

そのせいか、ASMRビデオの声優は大半が女性だ。また12年にはニュースサイトのバズフィードに、ASMRは霊長類の動物が毛づくろいをし合うときの快感と関係がありそうだとする記事が載った。そうであれば、ASMRでも脳内物質のオキシトシン(別名「愛のホルモン」)が増えるといった生理的反応が起きているのかもしれない。

ただし、全ての人がASMRで落ち着くわけではない。なかにはささやき声を不快に感じる人もいる。同じ音でも、反応や感じ方は人それぞれだ。それでもリチャードの推測では、10人に4人はASMRでリラックスでき、2人は「脳がぞくぞくするような」強い陶酔感に浸れるそうだ。

「今後は客観的な実験法を研究する必要がある」と英バーススパ大学の心理学者アグニェシカ・マカーリンは言う。彼女の17年の研究によると、ASMRに反応する人は共感覚者と性格が似ている。共感覚とは、音や数字に特定の色を感じる知覚現象のことだ。「病気治療への応用の可能性を探る研究も進むだろう」と彼女は言う。

『ボブの絵画教室』を患者に「処方」する精神科医もいるらしいと、ボブ・ロス社のコワルスキは言う。「薬を処方するかのように処方箋を書いているところが目に浮かぶ」と、彼女は笑う。

処方箋がなくても、ASMRに癒やしを求めることはできる。例えばASMR動画をたくさん投稿しているユーチューバーのアリー・マークには、現に約50万のチャンネル登録者がいる。なかには「外国の戦場から帰還した元兵士たち」もいて、「私の動画のおかげで癒やされた、ずっと眠れなかったのにようやく眠れた、といったコメントが寄せられている」そうだ。ちなみに彼女は、今やASMR動画だけで生計を立てている。

筆者が体験した極上の効果

私の部屋で、見知らぬ女が私の顔を化粧用ブラシでくすぐっている。環境音楽をバックに、彼女は使用中の道具をささやき声で説明する。タコみたいに何本も足がついた器具で頭皮をマッサージされる頃には、私は夢心地で雲間を漂っていた......。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

デンマーク、女性も徴兵対象に 安全保障懸念高まり防

ワールド

米上院可決の税制・歳出法案は再生エネに逆風、消費者

ワールド

HSBC、来年までの金価格予想引き上げ リスク増と

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中