脳の快感を呼ぶASMR(自律感覚絶頂反応)って何?
THIS IS YOUR BRAIN ON NOTHING
不眠症の治療に応用も
それだけではない。ASMRを何かに役立てようとする研究も少しずつ始まっている。同じ6月にイギリスのシェフィールド大学とマンチェスター・メトロポリタン大学の研究チームが、ASMRの生理学的効果に関する初の研究成果を発表している。
「ASMRはリラックスや鎮静の感覚で、人と結ばれているという感じを増すことが分かった」と、論文の共同執筆者ジュリア・ポエリオは言う。そうであれば、いずれは不眠症などの治療にASMRを応用できそうだ。
リチャードも、ボブ・ロスのように人を安心させる優しい声で話す。ASMRとは何か、初めてその定義が試みられた日を彼は覚えている。07年10月29日だ。その日、SteadyHealthという健康に関するウェブフォーラムのメンバーが「変な感覚が気持ちいい」というスレッドを立ち上げた。すぐに多くの反応があった。「頭のオーガズム」という用語の提案もあった。
ロスの番組に快感を覚えたという人も多かった。「何度も何度も見た」とシュワイガーは言う。「彼が絵を描くのを見て、彼の声とキャンバスを走るブラシの音を聞くと本当に落ち着いた。私はずっと不安を抱いて生きてきたので、神の恩寵のように感じた」
ロスは1995年に世を去ったが、今も慕われている。「彼はASMRのゴッドファーザーね」と事業を引き継ぐボブ・ロス社の社長ジョーン・コワルスキは言う。「ASMRという言葉がまだなかった頃から彼に夢中になる人は多かった」。番組を見ながら眠ってしまう人がいても、彼は気にしなかったという。「『申し訳ないけど、最後まで見たことはないんです。始まって10分くらいで寝ちゃうんで』と言ってくる人もいた」そうだ。
リチャードは科学者だから、ASMRは生理的な反応だと考え、ネットで論文を探した。しかし見つからない。当時分かっていたのは、ASMRが強い快感をもたらすこと、「頭のオーガズム」と呼ばれることはあっても性的な体験ではないこと、くらいだ。
「今は『ASMRエロティカ』とかで検索すると、セクシーにささやく動画がたくさん見つかる」と言うのは、ASMRスパ「ウイスパーロッジ」の共同設立者メリンダ・ラウ。でも本来のASMRが持つのは「興奮ではなく鎮静の効果だと思う」という。