ハッブル宇宙望遠鏡を使った研究提案の審査・採択の男女格差、完全匿名化で改善
ハッブル宇宙望遠鏡 (C) NASA
「ハッブル宇宙望遠鏡」を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は2018年12月14日、ハッブル宇宙望遠鏡を使った研究提案の審査において、提案者を匿名化したところ、性別による採択率の格差がなくなったと明らかにした(発表文)。
この審査において、男女格差が存在することは数年前から認識されており、改善に向けた取り組みが行われてきた。今回の結果をもって問題が解決したとはまだいえないが、改善に向けた希望が見えてきた。
毎年、ハッブルを使った観測や研究の提案を受け付け、審査する
ハッブル宇宙望遠鏡は、米国航空宇宙局(NASA)が1990年に打ち上げた、宇宙に浮かぶ望遠鏡である。高度約550kmの軌道を回っており、地上の望遠鏡とは違い、天候や大気の影響を受けることなく、天体をきわめて高い精度で観測できる。
ハッブルの運用はSTScIが行っており、ハッブルを使った観測計画の策定も同研究所が取り仕切っている。また、開発中のハッブルの後継機「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の運用、観測もSTScIが担当することになっている。
(参考記事)ハッブル宇宙望遠鏡の夢の後継機、開発が大幅に遅れて、コストも天文学的に
STScIは世界中から、ハッブルを使った観測や研究の提案を受け付けており、毎年その提案を、同研究所の審査会(TAC、Time Allocation Committee)が審査(査読)し、その次の一年間のハッブルの観測計画(研究チームに対する使用時間の割り当て)を決定する。毎年の提案数は数百から1000件ほどだが、そのうち採択されるのは数%から20%ほどと、非常に競争率が激しい。
このSTScIによる提案の審査においては、2014年に、提案する主任研究者(PI、Principal Investigator)の性別による格差が存在することが明らかとなっている。
2001年からの審査過程を調査したところ、男性PIによる提案の採択率が、女性PIより高かったのである。ハッブルの提案の審査は、申請者に査読者の身元は明らかにされないものの、査読者は申請者の身元を、性別を含めて知ることができるため、そこで偏りが生まれたと考えられている。
二重盲査読をはじめて採用し、男女格差が改善
そこでSTScIは今年(2018年)、実験的に二重盲査読(提案の申請者も査読者も、お互いに身元を知らされない状態での審査)を行った。STScIによると、物理科学の分野における大規模な提案審査で、二重盲査読が採用されたのは初めてだという。