最新記事

科学界

ハッブル宇宙望遠鏡を使った研究提案の審査・採択の男女格差、完全匿名化で改善

2018年12月26日(水)16時30分
鳥嶋真也

ハッブル宇宙望遠鏡 (C) NASA

「ハッブル宇宙望遠鏡」を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は2018年12月14日、ハッブル宇宙望遠鏡を使った研究提案の審査において、提案者を匿名化したところ、性別による採択率の格差がなくなったと明らかにした(発表文)。

この審査において、男女格差が存在することは数年前から認識されており、改善に向けた取り組みが行われてきた。今回の結果をもって問題が解決したとはまだいえないが、改善に向けた希望が見えてきた。

毎年、ハッブルを使った観測や研究の提案を受け付け、審査する

ハッブル宇宙望遠鏡は、米国航空宇宙局(NASA)が1990年に打ち上げた、宇宙に浮かぶ望遠鏡である。高度約550kmの軌道を回っており、地上の望遠鏡とは違い、天候や大気の影響を受けることなく、天体をきわめて高い精度で観測できる。

ハッブルの運用はSTScIが行っており、ハッブルを使った観測計画の策定も同研究所が取り仕切っている。また、開発中のハッブルの後継機「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の運用、観測もSTScIが担当することになっている。

(参考記事)ハッブル宇宙望遠鏡の夢の後継機、開発が大幅に遅れて、コストも天文学的に

STScIは世界中から、ハッブルを使った観測や研究の提案を受け付けており、毎年その提案を、同研究所の審査会(TAC、Time Allocation Committee)が審査(査読)し、その次の一年間のハッブルの観測計画(研究チームに対する使用時間の割り当て)を決定する。毎年の提案数は数百から1000件ほどだが、そのうち採択されるのは数%から20%ほどと、非常に競争率が激しい。

このSTScIによる提案の審査においては、2014年に、提案する主任研究者(PI、Principal Investigator)の性別による格差が存在することが明らかとなっている

2001年からの審査過程を調査したところ、男性PIによる提案の採択率が、女性PIより高かったのである。ハッブルの提案の審査は、申請者に査読者の身元は明らかにされないものの、査読者は申請者の身元を、性別を含めて知ることができるため、そこで偏りが生まれたと考えられている。

二重盲査読をはじめて採用し、男女格差が改善

そこでSTScIは今年(2018年)、実験的に二重盲査読(提案の申請者も査読者も、お互いに身元を知らされない状態での審査)を行った。STScIによると、物理科学の分野における大規模な提案審査で、二重盲査読が採用されたのは初めてだという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中