最新記事

中台関係

中国パワーに追い詰められる台湾映画界

Taiwan’s Losing Battle

2018年12月4日(火)17時15分
ローレン・テシェイラ

1204p4002.jpg

審査委員長を務めた中国本土出身の女優・鞏俐(コン・リー) Tyrone Siu-REUTERS

香港電影金像奨も、17年に同じような目に遭っている。中国返還前の香港の裏社会を描き、作品賞に決定した『大樹は風を招く』が、暗に中国返還を批判したものと受け止められたのだ。このため中国本土では、直前になって授賞式の中継が取りやめになった。

今年の金馬奨ドキュメンタリー部門は、14年の香港反政府デモ「雨傘運動」を描いた『傘上:遍地開花』も候補に挙がっていたから、中国当局がもともと中継に神経質になっていた可能性もある。

ドキュメンタリー賞や主演女優賞の発表後、ピリピリした雰囲気が最高潮に達したのは、作品賞の発表だった。通常なら大会委員長と審査委員長の2人が発表する場面だが、舞台に上がったのは、台湾出身の映画監督であるアン・リー大会委員長だけ。審査委員長を務めた中国出身の大女優、鞏俐(コン・リー)は観客席に座ったままだった。

中国のネチズンたちは大喜びして、ソーシャルメディアには鞏の毅然とした「無言の抗議」を絶賛する投稿があふれた。鞏が本当に愛国心からそんな態度を取ったのかどうかは分からない。ただ、傅に理解を示すような態度を取れば、中国政府や愛国主義者たちから猛攻撃を浴びることは分かっていたはずだ。

実のところ金馬奨は、1962年の創設当初から政治色が強かった。もともと国民党の独裁政権がプロパガンダ目的で創設した映画賞であり、政府の「マンダリン映画政策」を実践する手段だった。台湾に移住してきた国民党関係者が話すマンダリン(北京語)での映画製作を推進して、大衆の国民党支持を高めようとしたのだ。

一方、「金馬」という名前は、金門県と馬祖島の頭文字から取られた。いずれも地理的には台湾より中国に近く、台湾政府が長年「中国に奪われるのでは」と危機感を抱いてきた島だ。

中国も金馬奨に対抗して、63年に百花映画祭を創設したが、すぐに文化大革命が起きて休眠状態に陥った。その間に台湾と香港では映画産業が大きく成長し、金馬奨は中国語圏最大の映画賞へと成長した。

崩れる「文化では対等」

マンダリン政策の影響から、金馬奨は約20年間、マンダリン映画しか受け入れていなかったが、香港映画の興隆を受けて、83年からは広東語の映画も受け入れるようになった。一方、中国本土で製作された映画に門戸を開いたのは、ようやく96年のことだ。

当時の中国はまだ、経済発展という意味でも、文化的な影響力という意味でも、台湾を大きく下回っていた。そんななか中国と香港の合作『太陽の少年』が金馬奨作品賞を受賞したことは、中国にとって大きな勝利となった。それは台湾にとっても、本土の文化を真剣に見つめ、お互いの共通点を探ることに前向きになるきっかけとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ワールド

アングル:9月株安の経験則に変調、短期筋に買い余力

ビジネス

ロシュ、米バイオ企業を最大35億ドルで買収へ 肝臓
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中