最新記事

日中関係

安倍首相、日中「三原則」発言のくい違いと中国側が公表した発言記録

2018年11月14日(水)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

新華網とCCTVによれば、習近平が先ず長時間を掛けて発言し、その後に安倍首相が発言している。会談の中で習近平国家主席は「中日双方は四つの政治文書で確立させた各原則を遵守しなければならない」と言っている。

「四つの政治文書の原則」とは、

 1.1972年の日中共同声明

 2.1978年の日中平和友好条約

 3.1998年の日中共同宣言

 4.2008年の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明

である。ここに書かれている内容を「原則」として、中国では非常に格の高い(日本に対して「遵守せよ」という上から目線の)位置づけをしている。

この「原則」に基づいた習近平の長いお説教の中には、安倍首相が国会で答弁したことに関連する話も、一つだけ挟んでいる。それは「互いに協力的パートナーとして、互いに脅威を構成しないという政治的コンセンサスを持たなければならない」という言葉だ。

しかし、この言葉は、CCTVで何年も前から中国側が安倍批判を行なう時に使ってきた常套句で、沖縄の米軍基地や憲法改正を強烈に批判するときに使ってきた「耳慣れた表現」なのである。中国は常に「日本の再軍備」を警戒し、その可能性を強烈に批判してきた。だから日本は「四つの政治文書の原則」に違反しているとして、くり返し安倍政権を批判するときに使ってきた言い回しであることを付け加えて置く。

さて、習近平の長いお説教が終わると、安倍首相が以下のように述べたとCCTVと新華網は伝えている。CCTVは安倍首相の発言をナレーターが中国語に訳す形で報道している。関係部分を日本語に翻訳し戻したので、安倍首相の言葉と完全に一致しているとは限らない場合もあろうが、少なくとも中国語を忠実に日本語に翻訳したつもりだ。

――日中平和友好条約締結40周年という栄えある時に中国を訪問できたことを大変光栄に思う。この訪問を通して、競争から協調へと向かう新時代の日中関係を切り開くことを希望している。日中は隣国として、互利協力と、互いに脅威を与えないという精神に基づき、さらに両国間の四つの政治文書で確認し合ったコンセンサスに基づいて双方の関係を進めていき、国際社会と地域の平和と自由貿易に貢献すべきだ。(親善的内容なので中略)「一帯一路」は潜在力のある(ポテンシャルの高い)構想で、日本は第三市場での共同開拓をも含みながら、中国側とともに広範な領域で協力を強化したいと願っている。

以上がCCTVおよび新華網の安倍発言に関する報道記録だ。

安倍首相が言う「原則」を中国では「希望」と訳している

日本や他国のテレビ局は、冒頭部分だけしか取材を許されないだろうから、実際の場面ではどのように言ったのかに関しては、中国側を別とすれば、安倍首相およびその場にいた日本側関係者以外には分からない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾包囲の大規模演習 実弾射撃や港湾封鎖訓

ワールド

和平枠組みで15年間の米安全保障を想定、ゼレンスキ

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 10
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中