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安倍首相、日中「三原則」発言のくい違いと中国側が公表した発言記録

2018年11月14日(水)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

10月26日の日中首脳会談 Nicolas Asfouri/REUTERS

10月26日の日中首脳会談で「3つの原則」と言ったか否かに関して、安倍首相は「会談中に言い、確認した」と言っている。しかし中国側の実況中継はそのように伝えていない。中国の報道を通して真相を検証する。

安倍首相のツイッターと国会答弁

10月26日午後、安倍首相は習近平国家主席との首脳会談(以下会談)で、「競争から協調へ」「日中はパートナーであり、互いに脅威とならない」「自由で公正な貿易体制の発展」という新しい段階の日中関係の展望を述べたとしている。会談後、安倍首相はこれを「3つの原則」と位置付けて自身のツイッターで発信した。そこには「国際スタンダードの上に、競争から協調へ。隣国同士として、互いに脅威とならない。そして、自由で公正な貿易体制を発展させていく。 習近平主席、李克強総理(以下、習・李)と、これからの日中関係の道しるべとなる3つの原則を確認しました」と書いてある。

10月29日の衆議院本会議で代表質問に答え、安倍首相は「習・李と日中関係の道しるべとなる3つの原則を確認しました」と答弁している。

一方、26日の夜、会談に参加した西村官房副長官は同行記者に「(会談中に安倍首相は)『3つの原則』という言い方はしていない」と言い、30日になって、会談では「競争から協調へ、互いに脅威とならない、自由で公正な貿易体制を発展させていくとの3つの原則を確認した」と修正した。

11月5日の参議院予算委員会では非常に長いが、関係部分だけを時系列的にピックアップすると、安倍・西村両氏は以下のように回答している。

 11:18:35(安倍)私は習・李との会談冒頭で、取材しているカメラの前で、これら3つの原則に明確に言及して、(習・李からも)会談中で同様の発言があって、これらの原則の重要性について完全に一致している。

 11:21:19(西村)(会談後のブリーフに関して聞かれ)安倍総理から御答弁のあったとおりで、習・李との会談の冒頭で、総理から取材しているカメラの前で、これらの3つの原則について明確に言及した。そして習・李からも、会談中に同様の発言があり、これらの原則の重要性は、完全に一致している。

 11:21:49(西村)記者団へのブリーフにおいて、「3つの原則という言い方はしていない」という言い方で述べた。3つの原則の存在を否定したわけではない。

 11:22:52(安倍)(3つの原則は文書で確認したか、という質問に対して)文書では出していない。3つの原則について確認することができたということが全てだ。一目瞭然だ。これにひっかかって、何の意味があるのか。

中国側の日中首脳会談の実況中継と公表した会談記録では

実は中国側では、会談中の対話を実況中継しているし、それを文字化して公表している。あまりに膨大になるので、ここでは習近平国家主席との会談のみを考察する。

少なくとも中国の中央テレビ局CCTVでの実況中継では、安倍首相は「原則」という言葉は使っていない。使ったけれどもカットされたのか否かに関しては知る由もないが、新華網が文字化した会談内容を公表しており、そこにはCCTVの動画もあるので、ご確認いただきたい。

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