最新記事

日本社会

中高年男性が軒並みハマる「孤独の美学」 世界が取り組む課題に取り残されるニッポン

2018年10月18日(木)15時56分
岡本 純子(コミュニケーション・ストラテジスト) *東洋経済オンラインからの転載

そのツケを払うのが若者世代だ。こうした「つながりを求めるのは弱虫だ」といった昭和の「やせ我慢強制世代」の価値観を押し付けられて、「引きこもり」や「不登校」といった孤独に密接に絡んだ問題が、何の対策もなされぬまま放置されている。

今、日本には54万人(2015年、推定)の「引きこもり」がいると言われ、2015年度の全小中学生に占める不登校者の割合は1.26%と過去最多を記録した。こうした話を海外の人にすると、皆、なぜ、この状況が放置されているのか、と目を丸くして驚かれる。

その根本にあるのは、孤独を個人の問題ととらえ、人と人のつながりが、社会の基盤であるという認識が薄い中高年世代の価値観であろう。「一人でいいんだ」。学校に行けない子どもに対して、そういったメッセージが発信されることが多いが、それは「一人で我慢しなさい」というその場しのぎの突き放した物言いにも聞こえる。

誰もが「つながる」欲求と権利を持っている

つながり欲求は人間の根源的な生存の知恵である。「つながりたい」、でも、どうしたらいいのかわからない、居場所がない、そういう子どもたちに必要なのは、「君たちは決して一人ではない」というメッセージであり、彼らが安心してささやかなつながりをつくることができる居場所ではないだろうか。

人は誰もが「つながる」欲求と権利を持っているのである。個人や家庭にすべての責任を押し付け、画一的な学びの場しか提供できていない日本の教育現場の問題でもあり、社会として真剣に取り組むべき課題であろう。

不登校の子どもたち向けのフリースクール「東京シューレ」のスタッフでオルタナティブな学びの場について研究する朝倉景樹さんは「孤独がかっこいいなど、肯定的にとらえているのは、上の世代の話。10代は、その絶望的なつらさと日々、戦っており、『一人で生きていけ』というメッセージはまったく響かない。日本は1ミリの『ずれ』も許さない同調圧力の強い社会だからこそ、そこで我慢し、適応できない人をはじき出し、孤独な人を量産する仕組みになっている。何かあれば『自己責任』『我慢』で済ませようとする大人の犠牲になっているのが子どもたちだ」と語気を強める。

ひと時の「孤独」に向き合う力はもちろん、絶対的に必要だ。だからといって、人生100年時代に老後は20年でも30年でも「一人万歳」「回想にふけろ」「終活をしろ」などと、孤独を美化し、引きこもりを奨励する考え方に取りつかれているかぎり、不登校、高齢者や介護者、若者の孤独などの根本問題について、社会としての対策は一向に進まないのである。

世界各国が全速力でこの問題に取り組んでいる中で、手つかずの日本は押すに押されぬ「孤独大国」として"君臨"しつつある。これからの日本を担う世代に「世界一、不機嫌な社会」を遺産として残してはならないはずだ。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg




ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

NZ中銀が0.25%利下げ、景気認識改善 緩和終了

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時1000円超高 米株高を

ワールド

ウクライナ編入地域の「ロシア化」強化へ、プーチン氏

ビジネス

米FDIC、銀行の資本要件を緩和する規則案を承認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中