最新記事

日本社会

中高年男性が軒並みハマる「孤独の美学」 世界が取り組む課題に取り残されるニッポン

2018年10月18日(木)15時56分
岡本 純子(コミュニケーション・ストラテジスト) *東洋経済オンラインからの転載

世界では、「孤独は現代の伝染病」として、社会を挙げて、調査や対策が進められているが、日本では「孤独」はあくまでも個人の心の持ちようの問題であり、各人や家庭で我慢するなり、対処しろ、というスタンスだ。

「孤独」を肯定することで、やり過ごそうという中高年とは対照的に、若年層は、真剣にこの問題に向き合い、苦悶している。ユニセフの2007年の調査によれば、孤独感にさいなまれている15歳の割合は29.8%と先進国の中でもずば抜けて高かった。これはほかの国々の3~5倍の水準だ。

筆者は今年2月に日本人の孤独問題について掘り下げた『世界一孤独な日本のオジサン』を出版した。「孤独礼賛本」に比べると、売れ行きは数十分の1といったところだが、多くのメディアに関心を持っていただき、取り上げていただいた。

気がついたのは、取材に来る記者のほとんどが20~30代の若い年代の人たちであるということだ。肝心のオジサン世代は「余計なお世話だ」「ほっておいてくれ」という反応が多い一方で、若者世代は、直感的に、そして、本能的に、「孤独は我慢してやり過ごせる問題ではない」ことに気づいているように感じた。

「自分一人を楽しむ時間」とか「同調圧力に屈しない」といったように、辞書をも無視する解釈で、「孤独不安症」の人々にとって聞こえのいいレトリックが振りかざされているが、「孤独」とは、本来、"孤"児のように誰も頼る人がいないといった不安な気持ちを指す言葉だ。孤独の苦しみは、のどの渇きや飢えと同等、と言われる。身を切るようにつらいのはそれが「水を飲みたい」「食べたい」という強烈な欲求となって表れるのと同様に、「人とつながりなさい」という脳からの警告であるからだ。

昭和の「やせ我慢強制世代」の価値観

そうした本能的欲求を何とか押さえつけて、飼いならして、一人で我慢しなさい、もしくは人とかかわるのは面倒だから一人でいい、というのが日本の中高年世代の考え方である。しかし、うつ病や、心臓病や認知症など、さまざまな精神的・肉体的な病気のリスクを高めるなど、「孤独」が精神的・肉体的健康や幸福感に甚大な悪影響を及ぼすということは無数の科学的研究で明らかになっている。

現在の日本の主流の考え方は「運動中は水を飲むな」という昭和のスポコン部活のロジックに近く、八甲田山の行軍のごとき理不尽さなのである。

こうした健康への影響が、病気などの原因となり、国家財政を圧迫する大きな社会コストとなるととらえられ、海外では対策が進められているが、心配なのはそれだけではない。長期的な孤独の中で、人は不機嫌になり、自己中心的・攻撃的になりやすい、と多くの研究は示唆する。

生涯未婚率もうなぎ上りで、単身世帯も増加する中、長期的に孤独の人が増えれば、日本は不寛容な社会へと変質していく可能性がある。社会は冷笑的になり、人嫌いが増える。ある調査によれば日本社会は「積極的に社会とかかわる」「深く考える」という人が減り、「社会とは一定の距離を置く」「刹那的に生きる」という考え方に振れる人が増えている。高齢者クレーマーの増加など「不機嫌な孤独社会」の萌芽はそこかしこに見えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中