マハティール首相「エネルギー政策で原発を選択せず」 過去の事故理由に中国の「新植民地主義」かわす?
マレーシアのマハティール首相(左)は8月の訪中時、中国の「一帯一路」を「新植民地主義」と批判していたが── REUTERS
<マレーシアのマハティール首相が前政権の原発導入政策を撤回すると宣言。その背景には原発の抱える問題のほかに、中国に呑み込まれまいとする意図も?>
マレーシアのマハティール首相が電力などのエネルギー源として原子力を選択することはない、との立場を明らかにし国策として「反原発」を宣言した。これは9月18日にクアラルンプールで開かれた「電力供給産業会議2018」の開会式で、マハティール首相が行った基調講演の中で明らかにしたもので「マレーシアは電力確保の手段としては既存の方法を踏襲し、原子力は選択肢にはない」と述べ、エネルギー政策から原子力を除外する姿勢を明確にしたのだ。
マレーシアはナジブ前首相が就任した直後の2009年6月に政府として2020年以降の発電オプションとして原子力を選択肢の一つとすることを明らかにしている。その後2011 年には「マレーシア原子力発電公社(MNPC)」が設立され、原子力発電所計画により原発初号機の運転開始を2021年とし、2030年までに原発2基を導入するなどの方針が示された。
こうしたナジブ政権の原子力政策にマハティール首相が「待った」をかけた形となった今回の「反原発」宣言だが、その決定の理由には必ずしも中国との巨大プロジェクトの見直し、中止に代表される「ナジブ政権の諸政策の再考」というアンチ・ナジブ的側面ばかりがあるわけではないとされている。
マハティール首相は2018年5月の就任以来、ナジブ前首相の汚職追及と同時に同前首相が進めた中国政府との巨大開発インフラプロジェクトである東海岸高速鉄道画や南部ジョホールバル近郊で進む大規模都市計画の中止や見直しを積極的に進めている。
表向きは「国内経済優先、国益重視の観点」がその理由とされているが、実際は中国の一方的な「一帯一路」構想による「新植民地主義」(マハティール首相の北京訪問時の会見)からの脱却が理由であるといわれている。
科学的問題未解決が決断の動機
エネルギー・技術・科学・環境省のイェオ・ビーイン大臣も傍聴した基調講演の中でマハティール首相は「科学の進歩にも関わらず原発からは放射能が漏れる事故があり、放射性廃棄物をどうするかという問題も全面的に解決していない」と指摘し、原子力を選択肢としない理由は純粋な原発に関する科学技術の問題であり、それを決断に至る理由として大きく強調している。
マハティール首相の念頭にはウクライナのチェルノブイリ原発事故そして日本の福島第一原発事故などがあり、原発での事故、放射能汚染廃棄物が周辺住民に与える影響が深刻であるという現状が「原子力はマレーシアのエネルギー問題の解決にはならない」と決断させるに至った主要な動機とされている。
その上でマハティール首相はマレーシアのエネルギー問題は既存の方法で賄っていくこととするとして「石油、石炭、水力、風力による発電」を従来通り推進する姿勢を示したのだった。
「原子力発電は石油発電よりコストが安いことは承知しているが、これら既存の電源は安定しており、環境にも優しい」と強調、原発除外はコストより安全性や環境面を優先した結果であることも力説した。