最新記事

「戦後」の克服

元米兵捕虜が教えてくれた、謝罪と許しの意味

SEEKING A SENSE OF CLOSURE

2018年8月15日(水)19時30分
小暮聡子(本誌記者)

だがスターク親子はそれを知らない。その後の数分間は、これまで何度も見てきた光景と同じだった。祖父の話を切り出された相手は一様に、表情をこわばらせたまま固まる。驚いた様子のスタークの娘は、耳が悪くて聞き取れなかった父親にエスリンガーの言葉を繰り返す。すると、今度はスタークが目を大きく見開いてこちらを見た。エスリンガーがすかさず「父は、彼女のおじいさんは良い所長だったと言っている」と言うと、父娘の表情はいくらか和らいだ。そしてスタークは「君には、すべてを話す。私が知っているすべてを話す」と、怖い顔をして立ち上がった。私は自分の心も、みるみるうちに固まっていくのを感じていた。

元捕虜が語る70年の物語

スタークが米陸軍に入隊したのは41年3月、18歳のとき。1カ月後にはフィリピンに送られ、日本軍との戦闘を経て42年4月9日にバターン半島で捕虜になった。彼は「バターン死の行進」を歩いていない。当時マラリアで入院していたため、トラックでマニラ近郊のビリビッド収容所に移送されたのだ。移送中に「行進」のルートを通った際には、日本人に目を向けただけで銃剣で殺されかけたという。

ビリビッドの次に送られたのは、マニラの約120キロ北に位置するカバナツアン収容所。収容所正門のポールには切断された人の頭部がぶら下げられており、「逃亡を企てれば同じ目に遭う」という注意書きがあった。捕虜は10人で1つのグループを組まされ、1人が逃げれば残りの9人が処刑されるというルールが告げられた。そこでは、飢えや病気で毎日平均30人の捕虜が死んでいった。

war180815-pic02.jpg

捕虜時代のスタークは体重が44キロに減った COURTESY DARRELL STARK

その後、ミンダナオ島のダバオ収容所に移されたスタークは、44年に地獄船で日本に送られた。62日間かけて命からがら福岡県北九州市の門司港に着くと、三重県四日市市の捕虜収容所に送られ、紀州鉱山の鉱石を製錬する石原産業四日市工場で働かされた。

四日市での生活は、フィリピン時代に比べればずっとましだった。休日はほとんどなく、毎日12時間働かされたが、「思いやりのある」日本人もいた。ある日、骨のように痩せ細っていたスタークは工場で働く日本人の弁当を盗んで食べてしまった。だが、その日本人はひとことも問い詰めないばかりか、翌日から弁当を2つ持ってきて、1つをスタークに手渡した。弁当の差し入れは、45年5月にスタークが富山市の収容所に移されるまで毎日続いた。スタークが富山で終戦を迎えたとき、体重は44キロにまで落ちていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救

ワールド

トランプ氏、イランに合意期限「6日」 米戦闘機乗員

ワールド

米、イランで不明の戦闘機乗員救出 トランプ氏「史上

ワールド

イラク南部の巨大油田に攻撃、3人負傷 イラン国境に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 6
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 7
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中