最新記事

都市開発

世界が笑った中国模倣建築、実は、なぜだか販売好調

China’s “Duplitecture”

2018年8月7日(火)19時00分
クリスティーナ・チャオ

エッフェル塔もどきがそびえ立つ「偽パリ」の天都城 ALY SONG-REUTERS

<世界から笑われた「偽パリ」「偽ロンドン」。政府が締め付け、一時ゴーストタウン化したが大都市への近さと安さで人気が再燃している場所も>

中国東部・浙江省の杭州郊外に、高さ100メートルちょっとのエッフェル塔のレプリカが立っている。その周囲には約3100ヘクタールにわたりパリ風の建物と噴水、景観が広がっている。

この模倣の街・広廈天都城はパリから8000キロ以上離れているが、フランスのエッセンスを再現する目的で設計された。ここを訪れれば、本物のパリへ行く必要がないように──。

天都城は2007年、1万人以上の住民が暮らせる高級住宅地として販売を開始した。だが今も大半が空室のまま。中国の人々がその奇妙なコンセプトと地理的な不便さに拒否反応を示した結果だ。

2013年には、空っぽの大通りと雑草の生い茂るエッフェル塔の動画がきっかけとなり、この街の開発を失敗と断じ、「最悪レベルのゴーストタウン(鬼城)」と呼ぶ報道が相次いだ。

どこか別の場所に酷似した中国の街は天都城だけではない。中国の経済成長が加速した90年代は、世界規模での成功と富を象徴する住宅のニーズが高まった時期でもあり、欧米建築の模倣がある種のブームになった。2000年代に入ると、「偽都市」や世界的な名所のお手軽な模造品が国内各地に乱立した。

河北省では北京から北へ2時間の場所に、裕福な都市住民の休暇先としてアメリカ西部のワイオミング州ジャクソンホールにそっくりなリゾートタウンが誕生。2001年には、上海市当局が中心部の人口増加を緩和するため、さまざまなテーマの衛星都市を郊外に建設する「一城九鎮」プロジェクトに着手した。

そのうちの1つ松江区のテムズタウン(泰晤士小鎮)は、まるでロンドンの町並みのパロディーのようだ。英国式タウンハウスが並ぶ通りは石畳で舗装され、赤い電話のブース、大聖堂、イギリス風の制服を着た警備員、ウィンストン・チャーチルの銅像までそろう。近くの蘇州にはロンドンのタワーブリッジのコピー橋がある。

コピー建築に引かれる訳

テムズタウンの基本計画を手掛けた建築家のアンソニー・マッケイは、出来上がった街は「お笑い草」で失望したと本誌に語る。「あれは私が意図したテムズタウンではない。彼らは(イギリスに)来て建物の写真を撮り、それをコピーしただけ。建物に奥行きがない」

欧米をまねたテムズタウンを含む9つの衛星都市には、住宅団地の機能に加え、本物を見に行く経済的余裕がない人向けの観光スポットの役割もある。例えばギリシャまでパルテノン神殿を見に行けない人々には、代わりに甘粛省蘭州の模倣品がある。ほかにもホワイトハウス、ローマのコロッセオ、ギザのスフィンクスなど、世界の名所が中国各地に造られている。

mag180807china_2.jpg

モクスワのクレムリン内の大聖堂によく似た北京市門頭溝区の庁舎 REUTERS

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中